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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Norwood Builder ノーウッドの建築家 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「これは痛いね」と私。
「レストレイド鳥のつまらん勝鬨さ」ホームズは冷笑した。
「事件を放棄するのは後でもいいだろう。
重大な新証拠ってのは諸刃の剣なんだ。もしかすると、レストレイドがまったく想像だにしない方向に切りこむかもしれない。
朝食をすませるんだ、ワトスン。そして、何ができるのかを2人で見にいこう。
今日は、君の精神的支援が必要になりそうな感じがするんでね」
ホームズは朝食をとらなかった。これはホームズの特徴のひとつで、情熱が活動期に入ると食事をとろうとしなくなり、まったくの栄養失調で倒れるまで、自分の鋼のような強さを利用しつくしたこともあったのだ。
「今、気力や精神力を消化などに使えるものか」私の医学的な注意に対して、ホームズはそう答えるだろう。
この日も、ホームズは朝食に手をつけないままノーウッドに出発した。
いまだに、不健全な見物客がディープ・ディーン・ハウス周辺に群れをなしていた。ディープ・ディーン・ハウス自体は、私が胸に描いていたような邸だった。
門の内側では、レストレイドが、顔に勝利の色をみなぎらせ、見るからに勝ち誇った態度で我々を出迎えた。
「それで、ミスター・ホームズ、我々の誤りを立証できましたか? 
浮浪者とやらはみつかりましたか?」レストレイドは喚いた。
「僕はまだ結論を出したことなどないよ、どういう結論も」とホームズ。
「ところが、我々は昨日、結論を下しましたよ。そして今や、それが正しいと証明されています。ですから、今回は我々が少しばかり先んじていたと、認めてもらわねばなりませんよ、ミスター・ホームズ」
「その様子では、きっと何か変わったことでもあったんだね」
レストレイドは大声で笑い始めた。
「この中の誰よりも負けず嫌いなんですね」とレストレイド。
「人は常に自分の道を行けるとはかぎらない。そうですよね、ドクター・ワトスン? 
みなさま、もしよろしければこちらへお進みください。犯人はジョン・マクファーレンその人であることを、きっぱりとお見せいたしましょう」
我々はレストレイドに随って通路を抜け、薄暗いホールに出た。
「ここは、若きマクファーレンが犯行後に帽子を取りにきた場所でございます」とレストレイド。
「では、こちらをご覧あれ」
レストレイドは、この芝居がかったタイミングでマッチをすると、漆喰の壁に残された血痕を照らし出した。
レストレイドがマッチを近づけるにつれて、それが単なる血痕以上のものであることが分かった。
それは、しっかりと押された親指の指紋だった。
「拡大鏡でご覧ください、ミスター・ホームズ」
「ええ、そういたしますとも」
「同じ指紋が二つとないのはご承知でしょうね?」
「そういうふうに聞いてるよ」
「さてさてそれでは、この蝋の上の指紋とお比べ願えましょうか? 今朝、私が命じて取らせておいた、若きマクファーレンの右親指の指紋にございます」
レストレイドが蝋を血痕に近づけると、拡大鏡を使うまでもなく、2つの指紋が同一の指からとられたものだと見て取ることができた。
不運な依頼人の敗北が明らかになったのだ。
「これで決まりです」とレストレイド。
「うん、これで決まりだな」と私も和した。
「それで決まったよ」とホームズ。
どこか耳に引っかかる声音だったので、ホームズのほうに振り返った。
表情に大きな変化が訪れていた。
浮かれ騒ぐ心に身悶えしている。
両眼は星のように輝いていた。
押し寄せる笑いの発作を、必死の努力で抑えているようだ。
「いやいやまったく!」やがてホームズは口を開いた。
「そうとも、いったい何を考えてきたんだろう? 
見た目なんてごまかしばかりだ、確かにね! 
りっぱな若者のようだったのに! 
これはね、自分の判断を信頼するなという教訓だよ。そうだろう、レストレイド?」
「ええ、我々の中には少しばかり自信過剰な人もいますしね、ミスター・ホームズ」とレストレイド。
その横柄な態度が苛立たしいが、我々には返す言葉もない。
「若者が帽子を釘から外しながら、右の親指を壁に押し付ける。神慮のなせるものかな! 
自然な動作でもあるよ、ここに立って考えてみれば」
ホームズは一見すると冷静だったが、話しながら、興奮を抑えこむように全身をそわそわさせていた。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha
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