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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還
The Adventure Of The Norwood Builder ノーウッドの建築家 6
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「手にしたのは、ただ一条の希望の光――無にも等しい微かな光とはいえ。
金庫の中身は、大部分がテーブルの上に出されていた。
調べてみると、書類は封筒に入れて封をされており、ごく一部は警察によって開かれていた。
僕の見たかぎりでは、あまり価値のあるものではなかったし、預金通帳を見ても、ミスター・オールデイカーが言われるほど豊かな境遇にあった様子はない。
でも、どうやらすべての書類がそこにあったわけではなさそうだ。
間接的な証拠から他にも権利書があるはずなんだが――もっと価値のあるやつだ――見つけきれなかった。
もちろんこのことは、もし証明できれば、レストレイド説をレストレイド自身にはねかえしてくれるだろう。すぐに相続できると知っているものを誰が盗もうか? とね。
「結局、ほかの藪にはぜんぶ飛びこみ、獲物の気配がないことを確認したから、家政婦に賭けてみた。
名前はミセス・レキシントン、小柄で陰気で無口な人物で、疑り深そうな目つきをしている。
口で言う以上に何かを知っていた――僕はそう確信している。
いわく――9時半すぎにミスター・マクファーレンをお通しした。
ミスター・マクファーレンは帽子と、信じるかぎりではステッキをホールに置いていった。
そう、人は誰でも敵を抱えているという。でもミスター・オールデイカーは人付き合いを避けていたし、会う人も仕事関係の人だけだった。
ボタンを見ると、確かに昨日着ていた服についていたものだ。
木材は、1ヶ月も雨がないものだから、かなり乾いていた。
火口のように燃え上がって、現場に着いたときには炎以外には何も見えなかった。
書類についても、オールデイカーの個人的な仕事も、まったく知らない――だそうだ。
それでも――それでもね――」――ホームズは細い手を信念の激情に握り締めた――「何もかもが間違っている。僕には分かる。
まだ明らかになっていないことがあって、あの家政婦がそれを知っている。
瞳の中にあった陰鬱な抵抗の光、あれはやましいことを知っている人間の目つきだ。
とは言え、これ以上ここで喋りつづけたって、どうにかなるものじゃないね、ワトスン。ただ、幸運でもつかまないかぎり、ノーウッド失踪事件は僕らの成功話として描かれることはないだろうな。僕には我慢強い大衆がさらに待たされることになるのが目に見えるようだ」
「そうだなあ」と私。「あの男の外見は陪審員を動かすのでは?」
凶悪殺人犯バート・スティーブンスを覚えているね? 87年に自分から手をひけと言ってきたあの男を。
今回の依頼人よりも穏やかな物腰で、日曜学校の若者のようだっただろう?」
「取って代わる理論を確立できないかぎり、この男は負ける。
今のところ、彼の容疑からはほとんど欠点が見つからないだろうし、捜査も向こうの主張を強化するのに役立つばかりだ。
ところで、あの書類については、ひとつ、僕らの役に立ちそうな面白い部分があってね。
通帳を調べると、残高が少ないのは、昨年中、ミスター・コーネリアスに多額の小切手を切っているのが主な原因らしい。
引退した建築家との間に多額の取引を行っているミスター・コーネリアスとはいかなる人物か、正直に言って、ぜひ知りたいところだね。
コーネリアスは仲買人かもしれないけど、こういった多額の支払に該当する書類はまったく見つかっていないんだ。
ほかの手がかりはみんな駄目だった以上、捜査の方向を、銀行の調査に向けるしかない。誰がこの小切手を現金化しているのか問い合わせてみるよ。
ただ心配だね、ワトスン。僕らの主張が無様な結果に終わりそうな気がする。レストレイドが依頼人を絞首台に送りこんで、スコットランドヤードの大勝利ってわけさ」
この夜、シャーロック・ホームズが睡眠をとったのかどうかすら、私には分からない。私が朝食に下りてきてたときにはもう、青白い、憔悴した姿がそこにあった。その瞳は、黒い隈のせいで、普段よりも明るく輝いて見えた。
椅子まわりの絨毯には、煙草の吸殻や、さまざまな朝刊の早版が散らばっている。
「こいつをどう思う、ワトスン?」ホームズはその電報を弾いてよこした。
チュウコクスル ジケンヲ ホウキセヨ. ――レストレイド」
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha