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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還
The Adventure Of The Norwood Builder ノーウッドの建築家 5
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「この事件は、2つの奇妙な事件が密接に連なったものだからだよ。
警察は、第二の事件が現に犯罪だからといって、そちらばかりに注目するという誤りを犯している。
だけど、論理的にこの事件に取りかかるには、第一の事件に光を投げかけないといけないんだ。第一の事件とは何か――興味深い遺言書、ひどく急に作られた、ひどく意外な相続人を決めた例の遺言書だよ。
そのあたりを明らかにしておけば、後の事件も多少分かりやすくなるかもしれない。
いや、ワトスンくん、君が手を借せることはないと思う。
いや、危険の見通しもないし。危なそうだったら、君をおいて動き回るなんて夢にも見ないよ。
きっと、夕方に顔を合わせたときは、僕に保護を求めてきた不運なる若人のために何か報告できると思うよ」
ホームズの帰りは遅かった。やつれた、不満そうな表情からして、捜査開始時に抱いていた高い期待は果たされなかったのだと見うけられる。
一時間ほど、苛立つ心を慰めようとバイオリンを唸らせていたが、
やがて放り出すと、急に失敗談を細部に渡って話し始めた。
「何もかもが失敗だ、ワトスン――あらゆる手がこよなく失敗する。
レストレイドの前では図太い態度を崩さなかったけど、驚くなかれ、今度ばかりはあいつの線が正しくて、僕のは間違っているんだと信じるよ。
僕のあらゆる勘が、ひとつの流れを描いている。そして、事実はすべて逆をいっている。きわめて残念なことだけど、イギリスの陪審員が知性の頂点をきわめて、レストレイドの事実より僕の推理の方を好んでくれるようになるのはまだ先のことだろうね」
「そうとも、ワトスン。故オールデイカーはかなりの悪党だったことがすぐに分かったよ。
母親は家にいた――頭の軽そうな、青い目をした小柄な人でね、不安と憤慨に体中を震わせていた。
だけど、オールデイカーの不幸については、驚きも嘆きも表さなかった。
それとは逆に、たいへんな手厳しさでオールデイカーをやっつけるんだよ。あれを息子の耳にふきこんでいたとしたら、その心情は憎悪と暴力に向けて傾いていったに違いない。そう思わせるほど、警察の主張を大きく強化するような態度なんだ。そうと意識してやっているんじゃないんだろうけどね。
『あの男は人間というより狡猾な猿です』と母親は言う。『いつだってそうでした、若いころからずっと今まで』
「『ええ、よく知っていますとも。実は、昔の求婚者なんです。
神よ、感謝いたします。彼から目を背け、よりよい人と結婚する判断力を私にお与えくださったことに。たとえ、その人が彼より貧しくとも。
彼とは婚約していました、ミスター・ホームズ。そのころ、ひどい話を耳に挟んだんです。何でも、鳥たちの檻に猫を放ったとか言う話で、私はあまりの冷酷無慈悲さに怖くなりましたから、彼とはそれ以上つきあわないことにしたんです』
「『なるほど。何はともあれ、ミスター・オールデイカーはあなたのことをお許しのようですね。全財産を息子さんに遺そうというのですから』
「『私も息子も、なにひとつジョナス・オールデイカーから受け取りたくはありません。死後も生前も!』と気高い心意気を叫ぶんだ。
『天には神さまがおられます、ミスター・ホームズ。悪人に天罰を下した神さまが、折りを見て、息子の手があの男の血で汚れていないことも証明くださいます』
「それで、少しカマをかけてみたけど、我々の仮説に役立ちそうなものは得られなかった。それどころか、いくつか仮説に異を唱える点すらあったよ。
「ディープ・ディーン・ハウスというところは大きな煉瓦造りの邸だった。この現代風の建物は敷地内の奥に居座っていて、門前に広がる芝生には月桂樹の木立があった。
右手の、やや道から離れたところには、火災の現場となった木材置場がある。
これだ、手帳を1枚破ってだいたいの図を書いておいたよ。
左にあるこの窓が、オールデイカーの部屋に通じている。
レストレイドはいなかったけど、巡査長が代役の栄誉を担っていた。
連中、朝から燃え尽きた木材の灰を掻きまわし続けて、炭化した有機物と、色が落ちた円形の金属をいくつか手に入れたんだ。
僕が調べてみると、それがズボンのボタンに間違いない。
うちひとつからは、『ハイアムス』の名前が入ったマークを見て取ることができた。オールデイカーの仕立て屋の名前だ。
それから、芝生の上に痕跡が残されていないかていねいに取り組んだけど、連日の日照りが何でも鉄のように堅くしてしまっていた。
何も見つかるわけがない。人か何かを引きずって、木材と平行に植えられているイボタノキの垣根を抜けた跡があっただけだ。
言うまでもなく、こいつはレストレイドの見解を裏づけている。
8月の太陽を背にして芝生の上を這いずり回ったけど、1時間後、何の新事実もえられないまま起き上がった。
「さて、この大失敗の後、寝室に入ってここも調べてみた。
血痕はきわめて薄く、単なるしみや変色のようにも見えたけど、確かに最近のものだった。
ステッキは動かされていたけど、そこにも薄い血痕があった。
このステッキが依頼人の所有物であるのは疑う余地もない。
両人の足跡が絨毯の上に残されていたけど、第三の人物の足跡はない。ここもまた、向こう側の勝ちだ。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha