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A Dog of Flanders 3 フランダースの犬


Ouida ウィーダ
AOZORA BUNKO 青空文庫
 しばらくして、休日を楽しむ人々に混ざって、小柄な老人がやってきました。その老人は、腰が曲がり、足が不自由で、とても弱々しそうでした。
彼はとても貧しく、みすぼらしい服を着ていて、とても祭りに行くような格好ではありませんでした。そして、彼は祭りを楽しもうとしている人たちの群れでほこりが立っている中を、とぼとぼとゆっくりと歩いていきます。
老人は、パトラッシュを見て立ち止まり、不思議に思って脇により、みぞの草むらにうずくまって、同情のこもった優しい目で犬を調べました。
二、三歳くらいの、少しバラ色で金髪の、黒目をした子どもが老人と一緒にいました。子どもは、胸の高さもある草むらの中をぱたぱたと走って、このかわいそうな、大きな、じっとしている動物を、立ったまま、かわいらしくまじめにじっと見つめました。
 小さなネロと大きなパトラッシュは、このようにして出会ったのでした。
 その日の結末はというと、年老いたジェハンじいさんは、たいそう骨を折って苦しんでいるパトラッシュをジェハンじいさんが住んでいる小さな小屋に引きずっていったのでした。その小屋は、パトラッシュが倒れていた場所から、石を投げれば届くような、ごく近いところにありました。そこでパトラッシュはじゅうぶんに介抱されました。病気は熱と渇きと疲れによる脳発作でしたから、日陰で時間をかけてゆっくりと休むと、健康と力が戻ってきました。そして、パトラッシュは、四本の丈夫な黄褐色の足で、再びよろめきながらも立ち上がることができるようになったのでした。
 何週間もパトラッシュは使い物にならず、無力で、体中が痛み、ほとんど死にかけていました。けれども、この間、パトラッシュは粗いことばを耳にしませんでしたし、残酷にぶたれることもありませんでした。そのかわりにただ、同情のこもった子どものつぶやきと、老人のいたわるような愛撫だけを感じたのでした。
 パトラッシュが病気の間、この孤独な男と小さな幸せな子供は、パトラッシュが好きになりました。
小屋の片隅に干し草を積んで、パトラッシュのベッドにしました。そして、二人は、パトラッシュが生きているかどうか確かめるために、暗闇の中でパトラッシュの息づかいに聞き耳をたてるようになりました。そして、パトラッシュがはじめて大きくうつろな、切れ切れの鳴き声をたてた時、パトラッシュが回復したという確かなしるしに、二人は声をたてて笑い、一緒に喜んで、ほとんど泣き出しそうになりました。そして、小さなネロは、喜びのあまり、マーガレットの花輪をパトラッシュのがん丈な首にかけて、新鮮な赤い唇で彼にキスしました。
それから、パトラッシュがたくましい、大きな、やせた、力のある犬として再び立ち上がったとき、大きな熱心な目は、穏やかな驚きに満たされました。なぜなら、二人は、パトラッシュをののしって駆り立てたり、ぶって歩かせたりはしなかったからです。パトラッシュの心に強い愛が芽生えました。そして、この忠実な愛は、パトラッシュの命ある限り、決して揺らぐことがありませんでした。
 しかし、パトラッシュは、犬らしく、恩の心も忘れませんでした。
パトラッシュは横たわり、まじめな、優しい、茶色い目で友人たちの動きを見つめながら、じっと物思いにふけっていました。
 年をとった元兵士のダースじいさんが生計を立てるための仕事といえば、今や毎日小さな荷車でミルクをアントワープの町まで、足を引きずりながら運ぶこと以外ありませんでした。ジェハンじいさんよりは幸運な近所の村人たちのミルクの缶がその荷物でした。
村人たちは、ジェハンじいさんに同情してちょっとした仕事を彼に与えたのでした。もう一つ、とても正直な運び手に町までミルクを運んでもらって、その間自分たちは家にいて、牛やアヒルの世話をしたり、庭や小さい田畑の仕事をする方が好都合だった、というのがもっと大きな理由でした。
しかし、この仕事は、老人にとっては大変骨の折れる仕事になってきました。
彼は八十三歳でした。そして、アントワープまでは五キロか、もっとありました。
 パトラッシュが回復して、マーガレットの花輪を黄褐色の首にかけられて日なたぼっこしていたある日のこと、パトラッシュはミルクの缶を積んだ荷車が家を出て行って、帰ってくるのを見つけました。
 翌朝、老人が荷車に触れる前に、パトラッシュは起きて、荷車に歩いて行って、ハンドルの間に自分の体を置きました。こうすることで、食べさせてくれたお返しに働かせてほしい、それに自分には働く能力もあると、はっきりと訴えたのでした。
ジェハンじいさんは、ずいぶんと抵抗しました。というのは、老人は犬に労働させるのは犬の本性に反していて、恥ずべき行為だ、と考えていたからです。
 しかし、パトラッシュはあきらめませんでした。引き具をつけてくれないとわかると、パトラッシュは歯でかじって荷車を前に引っ張ろうとしました。
 ついにジェハンじいさんは根負けしました。彼が助けたこの動物の一徹さと感謝の気持ちに降参したのです。
ジェハンじいさんは、パトラッシュが引っ張れるように荷車を改造しました。その日から一生の間、毎日荷車を引っ張ることがパトラッシュの仕事となりました。
 冬が来たとき、ジェハンじいさんは、ルヴァンの祭りの時にみぞで死にかけていた犬を、自分の小屋に連れ帰ってきた幸運に感謝しました。 というのは、老人はとても年をとっていて、年を経る毎に弱っていったので、老人が助けたこの動物の力とがん張りがなかったら、雪と泥の深いわだちの中で、どうすればミルク缶の荷物を引っ張ることができるか、きっと途方に暮れていたに違いなかったからです。
パトラッシュの方はと言えば、天国のようなものでした。
前の主人は、それこそ一歩ごとに鞭をつかって、パトラッシュに無理矢理恐るべき重荷を引っ張らせましたが、そのような経験をした後で、いつもパトラッシュを優しく撫で、優しいことばをかけてくれる穏やかな老人と一緒に、真ちゅうの缶を積んだこの小さな軽い緑の荷車で出かけることは、パトラッシュにとっては、お遊びのようなものでした。
 その上、仕事は三時か四時には終わり、その後、パトラッシュは自分のやりたいように過ごせたのです。のびをしたり、日なたで眠ったり、野原をぶらついたり、ネロといっしょに飛び回ったり、仲間の犬と遊んだり、何でもすることができました。
パトラッシュは、とても幸せでした。
 パトラッシュにとって幸いなことに、元の主人は、メクレンの祭りの市で大酒を飲んで暴れ、死んでしまいました。だから、元の主人が新しい愛情に満ちた家に、パトラッシュを追いかけてきたり、じゃまをする心配はなかったのです。
 
Copyright (C) Ouida, Kojiro Araki
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