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A Dog of Flanders 9 フランダースの犬


Ouida ウィーダ
AOZORA BUNKO 青空文庫
「今日はアロアにゆかりの深い聖徒祭じゃないか」 その晩、小屋の隅っこのベッドに横たわっていたジェハンじいさんは言いました。
 少年は、そうだという身振りをしました。ネロは、おじいさんがそんなにちゃんと憶えてなくて、記憶がもっとあやふやだったらいいのに、と思いました。
「じゃあ、なぜ行かないのかね? 今まで一度だって呼ばれなかったことはなかっただろう、ネロや」 おじいさんは、追求しました。
「おじいさんがこんなのに、行けないよ」 ネロはベッドの上で格好のいい頭を傾けてつぶやきました。
「いや、いや! ヌレットのおばさんが来て、一緒にいてくれるよ。今までだって何度もそうしてくれたんじゃから。
一体何があったんだね、ネロや? まさか、けんかでもしたんじゃあるまいな?」 老人はしつこく尋ねました。
「いや、そんなことは絶対にないよ」 少年はうつむいた顔を真っ赤にしながら答えました。
「本当のこと言うと、コゼツのだんなが今年は呼んでくれなかったんだ。
コゼツのだんなは、ぼくに対して何か怒っているみたいなんだ」
「でも、何にも悪いことはしとらんのじゃろう?」
「うん、何もしてないよ。ただ、松の板にアロアの肖像を描いてただけなんだ。それだけなんだ」
「ああ! そうか」 老人は黙ってしまいました。少年の純真な答えから、おじいさんには事情がのみこめました。
おじいさんは、今でこそぼろ小屋の隅っこで、乾燥した木の葉っぱをしきつめたベッドに寝たきりになっていますが、世間のやり方というのがどういうものかを、完全に忘れた訳ではありませんでした。
 おじいさんは、いつもより優しい身振りでネロの金髪の頭を彼の胸に抱き寄せました。
「おまえは、ひどく貧しいんじゃよ」と、震える声でジェハンじいさんはいいました。「かわいそうに! どんなにつらかろう」
「ううん、ぼくは豊かだよ」 ネロはつぶやきました。ネロは無邪気にそう思っていました。王の力より強大な、不滅の力をもつ財宝を持っていると。
 ネロは静かな秋の夜に、小屋の戸口にいって、柱によりかかりました。そして、星の群れを見上げました。高いポプラの木は、風でたわんで揺れていました。
粉屋の家の窓は、すべて灯りがともり、時々フルートの音が聞こえてきました。
涙が頬にこぼれ落ちました。なんと言っても、ネロはただの子供に過ぎませんでした。でも、ネロは微笑みました。「未来があるさ!」と、自分に言い聞かせて。
 ネロは、あたりが静かになり、闇につつまれるまで、そこにたたずんでいました。それからネロとパトラッシュは、小屋の中に一緒に入って、並んでぐっすりと眠りました。
 
Copyright (C) Ouida, Kojiro Araki
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