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LITTLE WOMEN 若草物語 8-4
Chapter Eight Jo Meets Apollyon ジョウの原稿
4
Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
「そう、あたしは、今のあなたより、すこし大きくなったころ、おかあさんをなくしました。あたしは、自尊心が強いので、じぶんの欠点をたれにうち明けることもできず、ただ一人で長い年月を苦しみました。
そのうちに、あなたたちのおとうさんと結婚して、しあわせになったので、じぶんをよくすることが、らくになりました。
けれど、四人の娘ができ、貧乏になって来ると、またまたむかしのわるい欠点がでて来そうです。もともと、あたしは忍耐心がないので、娘たちがなにか不自由しているのを見ると、とてもたまらない気持になるんです。」
「まあ、おかあさん! それじゃ、なにがおかあさんを救って下すったんですか?」
「あなたのおとうさんです。おとうさんは、忍耐なさいます。どんなときも、人をうたがうことなく不平なく、いつも希望をもっておはたらきになります。
おとうさんは、あたしを助けなぐさめ、娘たちの御手本になるように、教えて下すったのです。だから、あたしは娘たちのお手本になろうとしてじぶんをよくすることに努めました。」
「ああ、おかあさん。もしあたしが、おかあさんの半分もいい子になれたら本望ですわ。」
今日味わったよりも、もっと大きな悲しみや後悔をしないように、全力をつくして、かんしゃくをおさえなさい。」
「あたし、やってみます。でも、あたしを助けて下さいね。
あたしね、おとうさんは、とってもおやさしいけど、ときどき真顔におなりになり、指に口をあてて、おかあさんをごらんになるのを見ましたわ。そうすると、おかあさんは、いつも口をむすんで、部屋を出ていらっしゃいます。そういうとき、おとうさんに、おかあさんは、お気づかせになったんですか?」
「そうなんです。そういうふうに、助けて下さいとお頼みしたんです。おとうさんは、お忘れにならないで、あのちょっとしたしぐさや、やさしいお顔つきで、あたしがきつい言葉を出しそうになるのを救って下すったのですよ。」
ジョウは、おかあさんの目に涙があふれているのを見て、いいすぎたかしらと、心配になって尋ねました。「あたし、あんなふうにいったの、いけなかったでしょうか? でも、あたし思ったこと、おかあさんにみんないってしまうの。とてもいい気持なんですもの。」
「ええ、なんでもおっしゃい。そうやって、うちあけてくれると、おかあさんはうれしいのよ。」
「あたしは、おかあさんを悲しませたのではないかと思って。」
「いいえ、おかあさんは、おとうさんのことを話しているうちに、お留守ということさびしくなり、おとうさんのおかげということを思ったりしたので。」
「だって、おかあさんは、おとうさんに従軍なさるように、おすすめになったし、出発のときもお泣きにならなかったし、留守になってからも一度もこぼしたりなさらないし、だれの助けもあてにしていらっしゃらないし。」と、ジョウは、いぶかしそうにいいました。
「あたしは、愛する御国のために、あたしの一ばん大切なものをささげたのです。
あたしが人の助けがいらないように見えるのは、おとうさんよりも、もっといいかたがおかあさんが慰め励まして下さるからなの、それは、天国のおとうさんです。
天国のおとうさんに近づけば、人の知慧や力に頼る必要はなく、平和と幸福が生れます。
さ、あなたもこのおとうさんのところへいきなさい。すべての心配や悲しみや罪をもって。ちょうど、あなたがおかあさんのところへ心から信頼して来るように、」
ジョウの答えは、ただおかあさんに、しっかりすがりつくことでした。そして、だまって、心からある祈りをささげ、いかなる父や母よりも、いっそう強いやさしい愛で、すべての世の子供をむかえて下さる「おとうさん」に、近づいていくのでした。
エミイは、眠ったまま、ねがえりをうって、ため息をつきました。ジョウは、今すぐに、じぶんの過失をつぐないたいと思うためか、今までにないまじめな表情をしました。
「あたし、かんしゃくをつぎの日までもち越して、エミイを許さなかった。もしローリさんがいなかったら、とんだことになったんだわ。ああ、どうしてあたしは、こんなにいけないんでしょう?」
ジョウは、エミイの上によりかかり、枕の上のみだれ髪をなでながら、そういいましたが、それが聞えたもののように、エミイはばっちり目を開け、ほほえみをうかべて手をさし出しました。
二人はなんともいいませんでしたが、毛布にへだてられながらも、しっかりと抱き合い、心こめたキスに、すべてを許し忘れてしまいました。
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani