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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険
A Scandal in Bohemia ボヘミアの醜聞 2
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
お訪ねするのは今夜、八時十五分前。一人の紳士が貴下にある極まりない重要事に関して意見を承るべく、参上致します。
近時、貴下がヨーロッパのさるご王室に尽くされたことを見ても、貴下は世に見ぬ一大事でもためらいなく託せる方と存じます。
私どもも貴下のご活躍を聞くこと、諸方面にございます。
何卒、その折はご在宅くださるよう、また来訪者が覆面をしておりましても、お気を悪くなさらぬよう、お願い致します。
無意識のうちに、事実と符合するべく推理するのではなく、推理に符合するべく事実を歪曲することになる。
「これを書いた人物は、おそらく金持ちだね。」と私は我がパートナーのやり方を出来るだけ模倣してみた。
その通りにすると、大文字のEと小文字のg、続いてP、Gと小文字のtが透かしで入っていた。
「残念。Gt はゲゼルシャフト、ドイツ語で会社という意味だ。
さてEgだが、これは例の大陸地名辞典でも参照してみよう。」
ドイツ語圏で、ボヘミアにありカールスバートのほど近くだ。
『ヴァレンシュタイン終焉の地として有名。ガラス工房と製紙工場が多くある。』
ホームズは目を輝かせ、勝ちどきの紫煙を煙草から上げた。
こんな奇妙な構文をした文章があったろう、『私どもも貴下のご活躍を聞くこと、諸方面にございます』。
それゆえ残るところは、ボヘミアの紙で手紙を書き、覆面で顔見せを拒むドイツ人が何を望んでいるか、その一点だ。
む、まさに今来たれり、勘違いでなければ、僕らの疑問はすぐに晴れる。」
そう言ってまもなく、馬の蹄の鋭い音、車輪が歩道の縁石に当たって軋む音が聞こえ、続いてベルが強く鳴り響いた。
「二頭立てだ、この音は。」とホームズは窓の外をながめて、続ける。「当たり。
報酬はありそうだ、ワトソン、それだけかもしれぬが。」
「気にすることはない。僕が君の助けを必要とするのだから、依頼人とて同じ事。
ご来訪のようだ。椅子にかけたまえ、博士。そして最高のご助言を。」
ゆっくりで重い足取りが、階段あるいは廊下から聞こえ、やがてドアの手前でやんだ。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo