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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険
A Scandal in Bohemia ボヘミアの醜聞 4
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「当時、余はほんの皇太子であった。若気の至りなのだ。今は三十になったが。」
「陛下、お金で買い戻されるべきではありませんか。」
ホームズは笑みをこぼし、「なんとも愛くるしい事件でございます。」
「余には深刻な問題であるぞ。」と王は非難がましく言い返した。
「そうでしょうとも。ところでその人物は写真を使ってどうするつもりなのですか?」
「相手はクローティールド・ロトマン・フォン・ザクセン=マイニンゲン、スカンディナヴィア王国の第二皇女である。
余の品行にいささかの影あらば、事は終局へと進んでいくだろう。」
「写真を先方に送りつけると脅迫をな。あの女ならやりかねん。
そのことは余がよく存じておる。知らぬであろうが、鉄の心を持つ女なのだ。
外見こそは美しい女性であるが、内に秘めたる心たるや、不屈の男であるぞ。
余が別の女と結婚するくらいなら、いかなる手段にでも訴え出るであろう……いかなる、な。」
「婚姻が公式発表になる日に送ると言いおったからな。
「あぁ、では三日の猶予がございます。」とホームズはあくびをする。
「好都合です。今、調べておきたい大事なことが一つ二つございますので。
無論、陛下はロンドンに当座、ご逗留なさいますね?」
「そのつもりだ。ランガム・ホテルにフォン・クラーム伯爵名義で滞在しておる。」
「写真が戻るのならば、余は王国の一領土を与えることもいとわぬ。」
王はセーム革の袋をマントの内から取りだし、卓上に置いた。
「ここに金貨で三〇〇ポンド、紙幣で七〇〇ポンドある。」
ホームズはメモ帳から一枚、領収の旨を走り書き、王に手渡した。
「セント・ジョンズ・ウッド、サーペンタイン並木道のブライオニ荘だ。」
ホームズは書き留めると、「もう一つ、質問がございます。
「しからば、おやすみなさいませ、陛下。じき、良い知らせをお届けすることを約束致します。
それからワトソン、君もおやすみ。」王のブルーム型馬車が通りを去っていったあと、ホームズはこう付け加えた。
「明日の午後三時にご訪問いただけると、これ幸い。君とこのささやかな事件について語りたく存じます。」
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo