※本文をクリック(タップ)するとその文章の音声を聴くことができます。
右上スイッチを「連続」にすると、その部分から終わりまで続けて聴くことができます。
※ "PlayBackRate" で再生速度を調節できます。
Sherlock Holmes Collection シャーロック・ホームズ コレクション
A Study In Scarlet 緋色の研究 第一部 第五章 2
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「更々。僕の読みが正しければ、いや、確たる理由があるな。この男は指輪を失うくらいなら、いかな危険も冒すだろう。
僕の考えで行くと、犯人はドレッバーの死体の間近でかがんだ際に落としたのだが、その時には気づかなかった。
家を離れてからなくしたとわかり、急いで戻ったものの、犯人が蝋燭を点けたままにするという失敗を犯したため、既に警察が来てしまっていたのだ。
そこで酔いどれを装い、なぜ門前にいるのかという疑惑を弱めようとしたというわけだ。
この件を考えつくせば、家を出た後、路上で指輪を落としたのではないかと思えて来よう。
夕刊を熱心に調べるだろう。拾得物欄に指輪はないか、と。
「ああ、あとのことは僕に処置を任せてもらって構わない。武器は持ってるか?」
男が自暴自棄になるやも。不意をつくつもりだが、何事にも備えねば。」
拳銃を手に戻ってくると、卓上は片づけられ、ホームズは趣味のヴァイオリンを一心に掻き鳴らしていた。
「筋が込み入ってきた。」と私が入るなり言ってくる。「アメリカへ打った電報の返事がここにある。
最後は僕に任せてくれればいい。にらみつけて、男を怖がらせぬように。」
扉をわずかに開けて、そう、それと鍵を内側から差しておくんだ。
ご苦労。これは昨日、露店で見つけためずらしい古書――『諸民族間の法』――低地地方のリエージュで一六四二年に出版されたラテン語の本だ。
チャールズの首がまだしっかりつながっていた頃、このやや茶褐色の背の本が印刷されたわけだ。」
遊び紙に色あせたインクで『グリオルミ・ヒューテ蔵書』とある。ウィリアム・ホワイトとは何者だろうね。
シャーロック・ホームズがゆっくりと立ち上がり、扉側にある椅子へと座り直す。
使用人が玄関へ出て行くのが聞こえ、戸の掛け金を外す音がした。
「ワトソン先生はこちらかえ?」はっきりしていたが、しわがれた声だった。
その返事はわからなかったが、ともあれ扉は閉められ、誰かが階段を上がり始めた。
何者かは廊下をのろのろと歩いてきて、弱々しく部屋の扉を叩いた。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo