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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還
The Adventure Of Charles Augustus Milverton チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン 2
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンは五十代の男で、その知能の高さを思わせる大きな頭の持ち主だ。ふっくらとした丸顔で、はげあがっている。凍りついてしまったみたいにずっと笑顔を絶やさず、両の灰色の瞳は、金縁の大きな眼鏡の奥で明るくきらめいている。
外見的にはなんとなくピクウィック氏(チャールズ・ディケンズ『ピクウィック・ペーパーズ』の主人公)の福々しさがあった。凍りついたほほえみとあちこちと探るようにうごきまわる目つきがそれを裏切っていたが。
顔つきと同じくものやわらかな声音で、先に訪問したときに会えなかったのは残念でしたとかなんとか言いながら、小さくてふっくりとした手をさしだした。
ホームズはその手を無視して、無表情にミルヴァートンの顔を見つめた。
ミルヴァートンはいっそうにこやかになり、肩をすくめ、脱いだコードを丁寧にたたんで椅子の背にかけた。そして、自分も腰をおろした。
「そちらのかたは?」と私のほうをみぶりで示しながら言う。
「ドクター・ワトスンは私の友人であり、パートナーでもあります」
「けっこうです、ミスター・ホームズ。あなたの依頼人の利益のことを思っただけですよ。
レディ・エヴァのために動いておられるということでしたね。
こちらの条件をのむ権限は任せられておられるのですか?」
「そうですな、そのことをお話するのは心苦しいばかりなのですが――万一十四日までにお支払い戴けなかった場合、十八日の結婚式は中止になることでしょう」
鼻持ちならない例のほほえみが、さらに得意そうに広がった。
「どうやらそちらはことを大きく構えすぎておられるようですね。
依頼人は、私のアドバイスどおりに行動することになるでしょう。
未来の夫に本当のことを打ち明けて、その寛大さにすがるように、とね」
ホームズの顔に影が差したのを見ると、明らかにホームズは知っているようだ。
「快活な――たいへん快活な手紙ですからね」ミルヴァートンは答えた。
ですが、ドーヴァーコート伯爵にはその魅力をご理解いただけないと思いますよ。
なんにせよ、そちらは違うふうに考えておられるのですし、お話はこのへんで切り上げるとしましょう。
伯爵の手にこの手紙をのせるのがなによりも依頼人にとって得だとお考えなのでしたら、実際、かくも大金を支払って取り帰そうとするのは頭の悪いことですしね」
そう言うと、ミルヴァートンは立ち上がってコートに手を伸ばした。
「ちょっと待ってください。結論を急ぎすぎておられますよ。
こういう微妙なことがらについては、スキャンダルを防ぐために全力を尽すようにしたいものです」
「分かっていただけると確信しておりましたよ」と、ミルヴァートンは満足げに言った。
「と、同時に」と、ホームズが続けて、「レディ・エヴァが豊かな女性でないというのも間違いないことです。
お断りしておきますが、彼女の力では二千ポンドが限界ですね。ご指定の金額はそれをはるかに上回っております。
そういうわけですから、すこし譲っていただいて、先に申し上げた額で手紙を渡していただけませんか。お断りしておきますが、それ以上の額を手にするのは無理な望みというものですよ」
ミルヴァートンのほほえみが広がり、愉快そうに目をきらめかせた。
「分かっておりますよ、彼女の資力についてはおっしゃるとおりでしょう。
と同時に、貴婦人の結婚というものは、新婦の友人縁者にとって、新婦のためを思って多少の骨折りをいとわない、そんな機会だということもお忘れなく。
結婚記念の贈り物にはなにがいちばんいいか、いろいろ気苦労があることでしょう。
みなさんに、この手紙の束こそが、ロンドン中のどんな燭台とかバター皿よりも喜ばれるものだとお知らせしてもいいんですよ」
「無茶をおっしゃらないでください」とホームズは言った。
「いやはや、不幸なことです!」ミルヴァートンは叫びながら、膨らんだノートを取り出した。
「ロンドンの貴婦人方は、努力を放棄せよという誤ったアドバイスを受けていると考えずにはいられませんな。
これをごらんください!」と、封筒に紋章が入った短信を掲げて見せる。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha