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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還
The Adventure Of The Three Students 三人の学生 6
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
この大学にはそのような御仁はいらっしゃらないと信じております。こんなことをしでかしてまで人を出し抜こうなんて。
「いや、あともうひとつ。あなたが受け持ちの三人の紳士のうち、誰ひとりとしておかしなところはなかったと言うのですね。」
「実に結構。さてソウムズさん、方庭の散歩を、差し支えなければ。」
頭上の三部屋から四角い光が深まる闇のなか漏れ輝いていた。
「三匹の鳥はみなその巣にいると。」とホームズは見上げる。
「ほお! あれは何だ。ひとり落ち着きのないやつがいる。」
それはインド人で、その黒い影がいきなり日覆いの向こうに現れるや、
「ひとりずつ顔をのぞいてみたいのですが。」とホームズ。
「このあたりの部屋はこの学寮でも最古の部類ですから、見学に来る人も珍しくありません。
「どうか名は伏せて!」とホームズが言ったのは、我々がギルクリストの部屋の戸を叩いたときであった。
長身痩躯、亜麻色の髪の青年が扉を開け、その用向きを知るや快く受け入れてくれた。
なかにはわが国の中世建築を特徴付ける珍しい箇所が数々あり、
ホームズはそのうちのひとつに見とれ、手帳にその絵を描きつけたいと言い出したが、鉛筆を折ってしまい、部屋の主からあらたに借りねばならず、とうとう刃物まで借りて削る羽目に。
同じく妙な災難はインド人の部屋でも起こった――相手は無口で小柄な鉤鼻の男で、我々を訝しげに眺め回したが、ホームズによる建物の素描が終わりを迎えるとあからさまに喜んでいた。
どちらの場合もホームズが求める手がかりを見つけたとは思えなかった。
表扉は叩いても開けられることはなく、返事といえばただ向こうから止めどなくやってくる罵詈雑言。
「誰かは知らんが、業火に焼かれちまえ!」と荒々しい声がうなる。
「荒っぽいやつだ。」と怒りに顔を赤くする案内人とともに、我々は玄関の石段へ降りてくる。
「まあ叩いてるのがわたくしだと気づいてないにしても、それでもあの振る舞いは失礼、こんなことでは実際怪しくも見えてこようもの。」
「ではさてソウムズさん、よい夜をお祈り申し上げます。」
「そんな、ホームズ先生、まさかいきなりわたくしを突き放したりなさいませんよね!
問題の一枚が荒らされたのなら試験をこのまま開くなんてとてもとても。
明日の朝早く立ち寄りますから、この件についてお話でも。
おそらくその頃には進む道を指し示せる状況にあるかと。
ではこの黒い泥と鉛筆の端切れは預かっておきます。失礼。」
我々は方庭の闇へと歩み出し、再度窓の方を見上げる。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo