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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険
The Man With The Twisted Lip 唇のねじれた男 6
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
シャーロック・ホームズはその問いかけに困惑しているようだった。
「率直に、あの!」と畳みかける依頼人。絨毯に立ったまま一心に見つめるので、ホームズも柳の安楽椅子にもたれかかる。
「でしたら、先生なら、こちらの意味もご説明いただけるでしょうか。今日、あの人からの手紙を受け取ったんです。」
シャーロック・ホームズは椅子から飛び上がった。あたかも電気が走ったかのようだった。
「ええ、今日なんです。」依頼人は立ったまま口元をゆるめ、どうしていいかわからないというふうに、一切れの紙を示した。
矢も楯もたまらず紙をつかみ取り、ホームズはそれを卓上に広げ、ランプをかざして、食い入るようにあらためた。
封筒の材質も悪く、押されてあるのはグレイヴズエンドの消印で、まさに日付は本日、いや昨日か、零時はとうに過ぎていた。
「とすると、これは配偶者の筆跡ではない、そうですね?」
「もうひとつわかるのは、その誰かしらは、封筒に宛名を書いてから、いったん住所を調べに出た。」
「宛名が、ほら、インクで真っ黒です。自然乾燥です。
もし一気に書かれ、そのあと吸取紙をかけたのなら、インクで真っ黒ににじんだりはしない。
この男は名前を書いて、住所を書く前に手を止めた。つまりその住所を書き慣れてないという事実を指し示します。
もちろん、些細なことですが、些細なことほど重要なものはありません。
大きな間違いがあって すぐには終わらないかもしれない
「鉛筆で、本の遊び紙に書かれている。大きさは八折判、透かしはない。
ふむ! 指の汚れた男が本日グレイヴズエンドで投函か。
ほう! そして封筒の折り返しはゴムで貼り付けてあり、間違いでなければ、煙草を噛んでいた男がやった。
うむ、シンクレアさん、雲が晴れてきましたが、危険が去ったとは言い切れません。」
「ですが、これで生存に間違いはないでしょう、ホームズ先生。」
「これが、我々を攪乱する巧妙な偽手紙でないとしたら、です。
「いえ、いいえ、そうです、これは本当にあの人の字です!」
ですが月曜に書かれて、今日出されただけかもしれません。」
「だとすると、そのあいだに、それなりのことが起こったとも。」
「ああ、気の滅入ることをおっしゃらないで、ホームズ先生。
わたくしどもは心が強く通じ合っておりますから、何か悪いことがあればわかるはずです。
最後に夫の姿を目にしたその日、あの人、寝室で怪我をしたんです。でも、わたくしは食堂にいたのですが、すぐに階段を駆け上りました。何かが起こったのだと、強い予感があったのです。
そんなささいなことでも感じるのに、死んで何もないなんて、そんな。」
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo