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The Black Cat(2) 黒猫


The Black Cat 黒猫
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
それは猫だったが、プルートーと瓜二つの猫だった。
私は手で触ってみた。そして、背中に手を当てて軽くなでてやった。
猫は立ち上がって、私の手に背中をすり寄せてきた。
私は急にその猫が欲しくなった。
居酒屋の主人に譲ってくれないかと持ちかけてみたが、彼はそんな猫は見たことがないと言うのだった。
私が居酒屋を出ると猫もついてきたが、私は拒まなかった。
この猫はたちまち私ども夫婦のペットになった。
ところが、家へつれて帰った翌朝、ふと見ると、この猫はプルートーと同じように、片目しかないことに気がついたのである。
なぜこのようなことが前の晩に気がつかなかったのか、私にはどうしてもわからなかった。
妻はこのためにかえって猫をいとおしく思うようになった。
しかし、私のほうは猫を嫌う気持ちがつのっていくばかりであった。
私がこの生き物を嫌えば嫌うほど、向こうの方では私を好きになっていくようだった。
猫は私のあとにつきまとって、いつも、どこへ行くにも、私についてくるのだった。
私が座るといすの下に寝そべった。
私が立ち上がると両足の間に入って、危うく私を倒しそうになった。
私はどこへ行くにも猫と一緒だった。
夜は夜で夢にまで見るのだった。
こうして、私は猫を忌み嫌うようになっていった。
当時、私たちは古い建物に住むことを余儀なくされていたのであるが、ある日のこと、その古い建物の穴蔵から妻が私を呼ぶのであった。
階段を降りていくと、いつものように猫がつきまとってきて、私の足元を駆け抜けたので、私はもう少しで転がり落ちるところだった。
私は突然怒りに燃えてナイフを取り出し、猫をめがけて刺そうとした。
妻がとっさに手をさしのべて私の腕を止めた。
このことがかえって私の怒りを燃え立たせ、私は前後の見境もなく身をひるがえし、ナイフの先端で妻の心臓をぐさりと突き刺した。
彼女は床の上に倒れ、音もなく息を引き取った。
ちょっとの間、私は猫を捜したが見当たらなかった。
ところで私はほかにもしなければならない仕事があった。というのは、大急ぎで死体を何とかしなければならなかったからである。
ふと穴蔵の壁のある部分が目にとまった。それは不要になった古い暖炉を覆いつぶすために、石を積んで壁を補充した部分である。
壁はあまり頑丈な作りではなかったので、それらの石は簡単に取りはずせることが分かった。
石の後ろには、案の定、死体を入れるのにぴったりの大きさの穴が開いていた。
だいぶ骨が折れたが、私は死体を埋め込んで、丹念に石を元の位置にもどした。
一つとして石を動かした形跡が残らなかったのを見て、私は満足だった。
何日もたった。
まだ、猫は帰ってこなかった。
2、3人の人々がやってきて、妻の消息をたずねたが、私はこれには簡単に応対することができた。
ところが、ある日、数人の警察官がやってきた。
私は、何ひとつ彼らに証拠をつかまれる心配はなかったので、彼らを招じ入れて捜索に立ち会った。
最後に、警官たちは穴蔵を隅から隅まで捜索した。
私は静かに見守っていたが、私が予期したとおり、彼らは何ひとつ気づかなかった。
ところが、警官たちが再び階段を登っていこうとした時、これで自分のほうが勝ったのだということを彼らが感付いてもいいのではないか、いや、知らせてやりたいという激しい衝動にかられた。
「この建物の壁は」私は言った。「とても頑丈な作りでしてね。古いが、よくできた家ですよ」
こう言いながら、私は壁の、背後に妻の死体の埋まっている個所を、杖でたたいた。
たちまち壁から恐ろしい鳴き声が聞こえてきて、私は背筋がぞっとするのを覚えた。
警官たちは、一瞬、顔を見合わせた。
そして大急ぎで石を一つ一つ取り除き始めた。たちまちのうちに、彼らの前に、乾いた血で黒くなり、腐敗した臭気の漂う、妻の死体が現れた。
死体の頭の上には、例の猫が片目を光らせ、血の色をした口を大きく開けて、復しゅうを叫びながら座っていたのである。
お送りしたのは、エドガー・アラン・ポオの小説『黒猫』でした。
物語は「やさしい英語」で書かれたものを、ハワード・ウイットが朗読したものです。
制作者はフィリップ・ターナーでした。
 
Reproduced by the courtesy of the Voice of America
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