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The Black Cat(1) 黒猫
The Black Cat 黒猫
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポオ物語シリーズ
アメリカの作家、エドガー・アラン・ポオが書いた短編の一つを「やさしい英語」の朗読でお送りします。
これらの朗読が、アメリカの口語英語の理解に役立つことを願っています。
この物語では、少なくとも1回は生まれ変わることになります。
あす死ぬ身とあれば、きょうのうちに事件のことを伝えておきたい。そうすることによって、できることなら、この心の上にのしかかる恐るべき重圧から抜け出したいのだ。
耳を傾けるのだ。私が破滅に至った経緯を話すことにしよう。
私は子どものころから、持って生まれた優しい性質のため動物が好きで、あらゆる種類の動物をかわいがったものだ。殊に、ペットと称する動物、つまり、人間と生活することを覚え、人間と住まいをともにする習性を身につけた動物が好きだった。
こういった動物たちの愛情には、ほかの人間どもの愛情がいかに不確かで変わりやすいものかということを経験から知っている人間の心に、直接語りかけてくる何物かがあるのである。
妻も私と同じく動物に対する愛情を持っていることを知って、私がどんなにうれしく思ったか、ご想像に任せよう。
彼女はたちまち幾種類かのかわいいペットを手に入れてきた。
この猫は飛び切りの大型で、まっ黒な美しい生き物であった。
私はこの猫をプルートーと名づけ、ほかのどのペットよりもかわいがっていた。
餌をやるのは私の役と決まっていたし、猫のほうでも家中どこへでも私のあとをつけ回っていた。
街へ出かける時なども、追い返すのに苦労をしたほどだ。
私たちの友情は、こんな具合で数年続いたが、この間に私自身の性格ががらりと変わってしまったのである。
日がたつにつれて、私の振る舞いは優しさを失い怒りっぽくなって、すっかりほほえみや笑い声を忘れてしまったのだ。
妻もペットも私の性格の変化を思い知らされたが、この猫だけは例外だった。
ある晩のこと、私は街の居酒屋から、たいへん遅くなって帰宅したことがある。当時は、居酒屋で飲んで時間を過ごすことが次第に多くなっていたのである。
私が入ろうとすると、例の猫のプルートーが、私から身を避けて逃れようとする気配が見えた。あるいは私の気のせいでそう見えたのかもしれないのだが。
私にまだ親しみを持っていると思っていた生き物のこの仕草に、私は分別を忘れて怒り狂った。
私は上着のポケットから小さなナイフを取り出して開いた。
そしてこの哀れな生き物の首を捕まえ、素早くひとかきぐいっとやると、猫の恐怖に満ちた目の片方をえぐり取ったのだ。
もと眼球の入っていた眼窩は、見るに耐えない様相を示してはいたが、猫にとってはもう痛みはなさそうだった。
しかし、当然のことながら、私が近づくと、きまっておじけづいて、私から走り去るのであった。
猫が走って逃げるのは当たり前のことなのだが、これがまたいつも私の癇に触るのだった。
人間はだれだって、してはいけないということがわかっているために、かえって、ふと気がついてみると自分が悪事を働いているという場合が何と多いことだろう。
私たち人間というものは、法が法であることを知っているが故に、無意識のうちに、これを破ろうとする衝動にかられているのではないだろうか。
ある日のこと・・・私はきわめて冷静な気持ちではあったのだが、猫の首に丈夫なひもを巻きつけて、家の下にある穴蔵に連れていき、頭上の木の梁の一つにつり下げた。
私は目から涙を流しながら、猫をそこにつるしたのであるが、なぜ私が猫をつるしたのかというと、次の理由によるのである。猫が私を慕ってくれていたことを私が知っていたこと、猫を痛めつけてもいいような理由が猫の側にはないように思われたこと、私がかかる行動に出るのは大きな間違いであり、きわめて罪深いことであるから、自分の魂はこのために神の恩恵に浴することのないところまで、永久に追いやられてしまうだろう、ということが私にはわかっていたこと、などである。
このことがあった夜、私が眠っていると、隣人の叫び声が開いた窓から聞こえてきた。
ベッドから飛び出してみると、家中が火に包まれていた。
それでも妻と私はやっとの思いで逃れ出ることができた。
家の外に出た時は、ただ立って家が焼け落ちるのを見ている以外に、手の下しようがなかった。
家が燃えるのをじっと見つめながら、私は猫のことを考えていた。私が死体を穴蔵に置き去りにしてきた例の猫のことを。
まるで、猫が何か神秘的な方法で家を焼き、私の邪悪な所業の償いをさせ、私に対して仕返しをしようとしたかのようであった。
何か月かの月日がたっても、猫のことが脳裏を離れなかった。
すみのほうに、今まで目につかなかった黒い物があるのが目についた。
Reproduced by the courtesy of the Voice of America