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The Mask of the Red Death(2) 赤死病の仮面


The Mask of the Red Death 赤死病の仮面
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
ともあれ、楽しく美しい仮装舞踏会であった。
踊り手たちが選んだ衣服、つまり仮装服は、当然のことながら、風変わりで不思議なものだった。
踊り手たちは、私たちが、夢の中でうなされて見るような姿形に見えた。
そして、この夢に見るような姿が、部屋から部屋へと静かに踊りの足取りを進めていき、移動するにつれて、その部屋の色彩を帯びるのであった。
踊り手の足取りが音楽に合っているというよりは、音楽が踊り手の足取りからわき出てきているみたいだった。
ところが、踊り手たちは7つ目の部屋へは入っていかないのである。なぜかというと、窓から入ってくる赤い光と壁掛けの黒々とした感じに、恐れをなしていたからである。入っていくと、この黒い巨大な時計の時を告げる音が、もっと太く低い音に聞こえるのだ。
しかし、ほかの部屋には人があふれて、生き生きとした生命の鼓動が波打っていた。
踊りは、とうとう時計が12時を打ち始める時まで続いた。
この時も音楽がやんだ。
またもや踊り手たちは、時計がゆっくりと時を打っている間、じっと立ち止まっていた。
時計が鳴りやむ前に、居合わせた多くの人たちは、1つ目の部屋、つまり青い部屋に、だれも見かけたことのない仮装の踊り手がいるのを目撃した。
この男のことを静かに話し合っているうちに、踊り手たち全員の間で驚きの気持ちが広がり、それがやがて恐怖とひどい嫌悪の気持ちに変わっていった。
この種の人々の集まりでは、よほど異様な仮装をした踊り手でなければ、このような感じを起こさせるということはあり得なかった。
生死をあざけり笑うような人々にも、笑い過ごすことのできない事柄があるものである。
だれもが、見知らぬ男がこのような衣服を着て、自分たちのところへ現れるのを許すべきでなかったと、深く感じているらしかった。
この男は背が高く非常にやせていて、「きょうかたびら」をまとったように、頭の先から足の先まで覆われていた。
彼の顔を覆っていた仮面、いや、果たして本当に仮面だったのだろうか、彼の顔を覆っていた仮面は死人の顔とそっくりだったので、すぐそばから見ても見分けがつかないほどだった。
ここまではまあいいとしても、だれも知らないこの仮装の踊り手は、こともあろうに赤死病そのもののようないでたちを装っているではないか。
彼の服には点々と血こんがあった。
顔を覆っている仮面にはぞっとするような赤い斑点が一面にあって、いや、ひょっとすると、彼自身の顔だったのかもしれない。
プロスペロは、このぞっとするような姿を見て、初めは恐怖に襲われたが、やがて怒り狂った。
「何というあつかましいやつだ」彼は叫んだ。「つまみ出せ。やつを捕まえるんだ。仮面をはがすんだ。夜明けに、絞首刑に処せられるやつの顔を拝ませてもらおうじゃないか」
プロスペロは、こう言った時、青い部屋にいた。
これらのことばは大きくはっきりと7つの部屋に響き渡った。
初めは、彼の話につれて幾人かの踊り手がこの異様な仮装舞踏者のところへ駆け寄ろうとした。
しかし、やがて恐ろしくなって立ち止まり、だれひとり手を差し出してこの男に触れようとする者はいなかった。
この見知らぬ男は、2つ目の部屋のほうへ歩きだした。
男はプロスペロから数フィートと離れていないところを通り過ぎたが、プロスペロは虚を突かれてじっと立ちすくんでいた。
そして踊り手が部屋の中心からあとずさりする間に、この見知らぬ男はだれからも行く手をさえぎられずに、ゆっくりと乱れることのない歩調で静かに移動した。青い部屋を通り抜けて、紫の部屋へ、紫の部屋を抜けて、緑の部屋を部屋を抜けて、黄色の部屋へ分かったこれを通り抜けると、白い部屋へ-そしてすみれ色の部屋へと。
この見知らぬ男が7つ目の部屋に入ろうとした時、プロスペロは突然怒りに燃えて、6つの部屋を駆け抜けた。
だれひとり、そのあとに続こうとする者はいなかった。
プロスペロは今にもこの見知らぬ男を刺そうとして、鋭いナイフを頭上高く振りかぶった。
プロスペロが、3、4フィート足らずのところまで近づいた時、この見知らぬ仮装の舞踏者は、振り返ってプロスペロの目をじっとにらみつけながら、黙って立っていた。
「まさか!そんな!」
叫び声が上がったかと思うと、ナイフが落ちて、黒い床の上にピカピカと光っていた。そして、すぐそのあとからプロスペロがその上に倒れ、息を引き取った。
その時、踊り手たちは黒い部屋に駆けつけた。
一番力の強い男が、黒い時計の横に立っている、背の高い姿の仮装舞踏者を捕まえようとした。しかし、彼の上に手をかけようとすると、経帷子の中身は人間の姿ではなく、からっぽであることがわかった。
この時、彼らには、これが夜陰にまざれ込んだ赤死病そのものであることがわかった。
1人また1人と踊り手たちは倒れていき、倒れると同時に死んでいった。
やがて火も消えた。
時計も動かなくなった。
こうして、暗黒と荒廃と赤死病とが、いつまでも国中を支配することになったのである。
お送りしたのは、エドガー・アラン・ポオの小説『赤死病の仮面』でした。
この物語の朗読はリチャード・バウアーでした。
 
Reproduced by the courtesy of the Voice of America
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