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The Tell-Tale Heart(1) おしゃべりな心臓
The Tell-Tale Heart おしゃべりな心臓
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
アメリカの作家、エドガー・アラン・ポオが書いた短編の一つを、「やさしい英語」の朗読でお送りします。
これらの朗読が、アメリカの口語英語の理解に役立つことを願っています。
では、ポオの『おしゃべりな心臓』という小説をお聞きください。
ポオの言うところによると、私たちがたいへん恐ろしい目にあった時には、心臓はいつもより速く大きな音を立てて脈を打ちます。あまり音が大きいので、脈を打つのが聞こえるというか、少なくとも私たちには聞こえるような気がするのです。
私は確かにずっと病身でした。それもひどく患っていたことは事実です。
しかし、だからといって、なぜ、あなたは私に自制心が欠けているとか、私が狂人だなどとおっしゃるのですか。
私が自制心を全然失っていないことが、あなたにはわからないのですか。
私の心というか感情というか、私の感覚が前にも増して鋭敏になったのは、ひとえに病気のせいなのです。
今まで聞こえなかったような物音までも、聞こえるようになったのです。
天国から地獄に至るまで、およそ音という音は、すべて私の耳に入ってきたのです。
さあ、私が言うことを聞いてください。ことの次第を話しましょう。
私の話を聞いたら、私の心が全く正常であることが、あなたにもわかっていただけるでしょう。
この考えが最初に脳裏に浮かんだときの様子を、お話することはとてもできません。
私のやったことには、何も理由などなかったのですから。
私は別にこの老人を憎んでいたわけではありません。それどころか、私はむしろこの老人を愛していたのです。
私は彼のために気分を害されたといったようなこともありませんでした。
彼の目つきは禿げ鷹の目つき、つまり、動物が死んでいくのをじっと見守っていて、やがてその死体の上に舞い降り、八つ裂きにして食べてしまう、あの恐ろしい鳥の目つきのようでした。
老人のはげたかの目つきで見つめられると、背筋がぞっとするのを覚えて、血が凍ってしまうのではないかとさえ思えたのです。
だから、私はついに何が何でも老人を殺して、あの目つきを永久に閉ざしてやろうと決心したのです。
ところであなたは、私が狂っているとでもおっしゃるのですか。
狂人には計画を立てることなんかできるはずがありません。
ぜひとも、あなたにもご覧いただきたかったのですが、私はあの週はずっと、老人に対してこのうえなく親しみを示し、温かくそして優しくしていたのです。
毎晩、12時ごろになると、私は老人の部屋のドアをそっと開けました。
そして、ドアが十分開いたところで、私はまず手を中へ入れ、ついで頭を入れたのです。
私は明かりがもれないように布で覆いをしたランプを手にしていました。
それから、注意深く布を引き上げたのですが、一筋のか細い光があの目に当たるよう、それはもうほんのわずかだけでした。
私は毎晩、それは長い夜でしたが真夜中に7日間にわたって、このことを繰り返しました。
彼はいつも目を閉じていましたので、私の仕事はうまくいきませんでした。
というのも、私が抹殺したいと思っていたのは、老人ではなく彼の目、あの「邪悪な目」だったからです。
毎朝、私は彼の部屋へ行き、温かみのある親しげな声で、昨夜はよく眠れたかね、とたずねたりしたものでした。
彼は、毎晩12時かっきりに私が彼の寝顔をのぞき込んでいることなど知る由もなかったのです。
8日目の晩、私はいつもよりも注意深くドアを開けました。
私はそれまでは、自分にこれほどの才能があろうとは思ってもみませんでした。私はもう成功は間違いないと確信を得ました。
老人は、私がドアのところにいようとは夢にも知らず、そこに横たわっていました。
あなたは私がおびえたとお考えでしょうが、決してそんなことはありません。
彼のほうからは、ドアの開き口が見えないことはわかっていたのです。
老人がガバッとベッドの上に起き直ったかと思うと、「だれだっ!」と怒鳴ったのです。
まる1時間動かずにいましたが、老人が横になった物音は聞こえませんでした。
そのうち、老人がもらした低い恐怖の叫び声が聞こえました。
これで、彼が恐ろしさのあまりベッドの中で眠りもせずに起きていることがわかりました。彼がそこにいる私に気づいていることは、わかっていました。
彼のほうからは、私がそこにいるのは見えませんでした。
彼には、もうそこに「死」の神が立っているのがわかっていたのです。
私は、少しずつ、ゆっくりと布を引き上げました。ついに、小さな、小さな明かりが下からもれ、あのはげたかの目に当たりました。
目が大きく見開いたまま、私のほうをじっと見つめているのを知って、私は怒りがこみ上げてくるのを覚えました。
ただあの目が-あの冷酷な青い目が見えるだけでしたが、私はからだ中の血が凍る思いでした。
私の聴覚は、前にも言ったように異常に鋭くなっていましたので、壁越しに聞こえてくる時計の音のような、短く低い静かな音までも聞こえたのです。
老人の恐怖が極度に高まっていたにちがいありません。
そして、この音が大きくなるにつれて、私の怒りも次第に高まり、より大きな苦痛を覚えるようになっていきました。
夜のしじまの中で寝室の暗闇の静けさの中で、怒りは恐怖に変わっていきました。というのは、心臓の鼓動があまり大きいので、きっとだれかに聞きつけられるにちがいないと思ったからです。
私は「さあ、死ぬんだ、死ぬんだ」と叫びながら、部屋の中へ飛び込みました。
Reproduced by the courtesy of the Voice of America