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The Tell-Tale Heart(2) おしゃべりな心臓
The Tell-Tale Heart おしゃべりな心臓
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
私が襲いかかると、老人は恐怖の大声を上げ、ベッドカバーをしっかりとひっかぶりました。
彼の心臓はまだ鼓動していましたが、私は、さあ、これでうまくいきそうだぞと思ったので、笑みを浮かべました。
彼の心臓は何分もの間、鼓動を続けていましたが、やがて鼓動も止まりました。
私はベッドカバーをはがして、彼の心臓の上に耳を当ててみました。
これで、もう彼の目つきに悩まされることもなくなるでしょう。
ところで、あなたはまだ私が狂っているとおっしゃるのですか。
私が死体をどんなに注意深く隠したか、ぜひ見ていただきたかったと思うんです。
私はまず首を切り落とし、それから腕を、そして足を切り取りました。
床の上に一滴の血も落とさないよう、気を配りました。
床板を3枚はずして、そこへバラバラの死体を入れたのです。
それから、だれが見ても動かしたことに気づかないよう、床板を注意深く元の位置にもどしました。
仕事が片づいたころ、ドアのところに人の気配がするのが聞こえました。
私はドアを開けに行きましたが、別に恐れることはないと思っていました。
隣人のだれかが老人の叫び声を聞いて、警察に連絡したのです。この3人の男たちは、事情聴取と家宅捜索のためにやってきたというわけです。
あの叫び声は私が夢にうなされて発したものであることを説明しました。
老人は今田舎の友だちのところへ行っていて留守です、と私は言いました。
私は気のすむまでよくお捜しくださいと言いながら、警官たちを家の中のすみからすみまで案内しました。
私は、彼らをからかうかのように、腰をおろしてしばらく話をしていらっしゃいませんか、と勧めたりしました。
警官たちは、私のくつろいだ静かな物腰にすっかり惑わされて、私の言うことを真に受けたのです。
だから、彼らは腰をおろして、私と親しげにおしゃべりをしました。
ところが、私も同じく親しげに応対してはいたものの、まもなく、早く帰ってくれればいいな、と思うようになりました。
私は頭痛がして、耳の底に奇妙な物音が聞こえてきたのです。
私はそれまでよりも口数が多く早口でしゃべるようになりました。
それなのに、彼らは相変わらず腰をおろしたまま、おしゃべりを続けました。
ふと気がつくと、この音は耳の底で聞こえていたのではなかった。頭の中で聞こえていたのではなかったのです。
その瞬間、私の顔色はまっ青になったにちがいありません。
私はますます早口で、声を張り上げて話しつづけました。
それは速くて低い静かな音で、ちょうど壁越しに聞こえてくる時計の音のようでしたが、私にはなじみの深い音でした。
私は音を立ててあの恐ろしい音をかき消そうとして、床の上でいすを押し動かしたのです。
それでも、男たちはほほえみながら腰をおろしたままおしゃべりを続けるのです。
彼らのほほえみとあの音が、私には耐えられないほどになってきました。
私は床板を指さして叫びました。「そうですとも、私が彼を殺したのです。
それにしても、彼の心臓の鼓動はどうして止まらないのでしょう。
お送りしたのは、エドガー・アラン・ポオの小説『おしゃべりな心臓』でした。
この物語は、「やさしい英語」で書いたものを、リチャード・バウアーが朗読したものです。
Reproduced by the courtesy of the Voice of America