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Episode-11 Balser and the Fire Bear- Part Two(2)


Episode-11 Balser and the Fire Bear- Part Two (Charles Major) パルサーと火吹きぐま(チャールズ・メージャー)
AMERICAN SHORT STORIES
リンピーはもう一度斧を振り回しましたが,くまはリンピーを打ち倒します.
くまはリンピーをかもうとしますが,口の中に棒が入っているのでかむことができません.
くまは棒をかもうとするのですが,棒はどうしても動かないのです.
やがてくまは前足を口のところへ持ってきて,棒を動かそうとします.
リンピーははい出しました.
少年たちは3人とも走って逃げました.
やがて,少年たちは立ち止まって振り返りました.
くまはなおも口から棒を出そうとして苦心しています.
パルサーは銃を取りました.パルサーとリンピーが弾をこめている間,ポールはたいまつをかかげていました.
3人とも,ゆっくりとくまのほうへ歩いていきます.
パルサーが撃ちますと,くまは後ろ足で立ち上がりました.
続いてリンピーが撃ちますと,くまは後ろへ倒れました.
ポールとリンピーが,くまのほうへ歩み寄りました.
しかし,パルサーは2人を呼びもどしました.
「待て!」彼は言いました.
「まだ死んでいないかもしれないぞ.
もう一度撃とう」
その瞬間,くまが跳び上がりました.
くまは一瞬じっと立ち止まっていましたが,向きを変えたかと思うと,一目散に逃げました.
「急げ」パルサーが大声で言いました.「追っかけるんだ」
くまはブラック・ガリーに逃げ込みました.少年たちは,くまのあとをぴったりとつけていきました.
パルサーがくまに向かって怒鳴りつけると,くまは一瞬振り返りましたが,また小峡谷を高い断崖(がい)のほうへ入っていきました.
断崖の上の岩は垂れ下がっていて,そこにひょろ長い木が生えていました.
くまはこの断崖の下に腰をおろしました.
少年たちのところからは,くまが死んでいくのが見えました.
くまはそこに座って声も出さず,激しい痛みのためにゆっくりとからだを前後に動かし,積み上げた石炭が燃えているようにあかあかと光を放っていました.
辺りは全くのやみ夜で,星ひとつ見えませんでした.
やみの中に見えるのは,くまが放つ赤い光だけでした.
「さあ,撃ち殺してここを出よう」とポールが言いました.
彼はパルサーとリンピーが撃つ間,たいまつをかかげていました.
くまは転がってうつ伏せに倒れました.
パルサーとリンピーは,この小峡谷を出ようと歩き始めました.
2人は小峡谷の出口まで来た時,ポールに話しかけようと思って振り返りました.ところがポールの姿が見えません.
彼はまだ小峡谷の奥のほうでくまを見ていたのです.
「ポール!
ポール!」パルサーは大声で呼びました.
ポールはたいまつをかかげて,くまのほうへ歩いていきます.
「そっちじゃないよ.ポール,こっちだよ」
しかし,ポールはなおもくまのほうへ向かっていくのです.
「ポール,まだ生きてるかもしれないよ.
もどれ,もどれったら!」
やがて,ポールはくまの横まで来ました.彼はたいまつをかかげて見下ろしました.
くまが最後の力を振りしぼって立ち上がり,ポールの顔に一撃を加えました.
ポールが倒れて,たいまつがすっ飛びました.
突然,青い炎がたいまつの落ちた地面から立ち上りました.
火は地面をさっと走ったかと思うと,急な断崖を稲妻のように駆け上がったのです.
火は夜空を照らしました.
そのうち,地中の深いところからどろどろという低い音が聞こえてきました.
炎が再びさっと空高く上がりました.
パルサーとリンピーはあまり恐ろしかったので,ポールを残して小峡谷から逃げ出しました.
2人は,足の下で大地が揺れるのを感じました.やがて,百丁の銃を一度に撃ったような大爆発の音が聞こえました.
周囲の地域がま昼のように明るくなりました.
リンピーとパルサーは,ブルー川を駆け渡ってから振り返ってみました.
彼らの目には,縦横100メートルはどの赤い炎が,ブラック・ガリーから断崖の上まで駆け上がっていくのが見えました.
そして次の瞬間には,大きな岩や家ほどの大きさの塊が,辺り一面に落ちてきました.
まるで,大きな火山が突然爆発したような感じでした.
少年たちはすっかり静まるまで,じっと見守っていました.
それから2人は黙って氷の上を渡っていき,
馬を残しておいたほら穴を見つけました.
彼らはポールの馬を間にはさんで家路につきました.
かわいそうなポール.
彼の姿は二度と見ることができませんでした.
この火が鎮まってから,大勢の人たちが彼を捜しましたが,ポールも火吹きぐまもなんの痕(こん)跡もありませんでした.
どちらも燃えて灰になってしまったのです.
多くのブルー川の開拓者は,火吹きぐまが悪霊であることを信じませんでした.
みんなの言うところによれば,このくまはおそらく,ブラック・ガリーの枯れ木の中に住んでいて,その枯れ木は朽ちて,きつね火という物質と混ざっていたのだろう,ということです.
くまの毛に燐(りん)が一面についていて,そのためにくまは夜になると光を放ったのだろう,というのです.
また,あの爆発はブラック・ガリーの中にたまっていた天然ガスによるものだ,ともいっています.
このガスが,ポールがたいまつを落とした時に,爆発したというのです.
パルサーとリンピーは,あの日のことを二度と口にしませんでした.
2人にとっては聖なるものだったのです.
2人はくまを殺しましたが,同時にポールも失ったのです.
人々は,ブルー川の火吹きぐまを見たものはだれでも3か月以内に死ぬという言い伝えにも,幾らかの真理があると信じていました.
アメリカの短編小説『パルサーと火吹きぐま』をお送りしました.
きょうの話で,パルサーの連続物語は終わりです.ブルー川の若き英雄とでも申しましょうか.
語り手はジャック・モイルズでした.
「アメリカの声」では来週も同じ時間に,特別英語によるアメリカの短編小説をお送りします.どうぞお聞きください.
 
Reproduced by the courtesy of the Voice of America
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