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Episode-9 The Boy Who Painted Cats(2) 猫の絵をかいた少年
Episode-9 The Boy Who Painted Cats (Lafcadio Hearn) 猫の絵をかいた少年 (ラフカディオ・ハーン)
AMERICAN SHORT STORIES
彼が村に着いた時はもう暗くなっていて,村人たちはみんな寝ていました.
村外れの丘の上に大きな寺があるのが目に入り,寺の中に明かりがついているのが見えます.
人々の言い伝えによると,たちの悪い化け物が,旅人にだれかが寺に住んでいると思い込ませるために,明かりを使っていたのです.
少年は明かりが見えたので,寺まで行って山門をたたきました.
とうとう,少年はとびらを押してみました.とびらが開いたので,彼は大喜びです.
彼はお坊さんに会いたいと思って中へ入っていきました.
彼は,まもなくお坊さんがもどってくるだろうと思ったので,座りこんで待っていました.
そのうち,彼はこの寺がほこりにまみれていることに気づきました.
座るところも,一面うすく光ったほこりがいっぱいたまっているのです.
彼は,これならきっと自分を置いてくれるだろうと恩いました.
お坊さんたちは,寺を掃除する若い小坊主が要るにちがいないからです.
彼は辺りを見回して,どうしてお坊さんたちは自分たちの寺をこんなに汚くしておくのだろう,と不思議に思いました.
ふと壁を見上げると,汚れていない白い部分があるのに気づきました.
はるばると歩いてきたので疲れてはいたのですが,彼は猫の絵がかきたくなりました.
やっとすずり箱が見つかりましたので,少年は白壁に猫がかけるように,墨をすりました.
彼はたくさんの猫をかきましたが,やがて睡魔に襲われ始めたのです.
彼は,自分が猫をかいた白壁の近くに横になろうとしましたが,ふと老住職のことばを思い出しました-「夜は広い場所にいてはいけない.狭い場所にいるんだよ」
寺はたいへん大きく,少年のほかにはだれもいなかったので,
このことばを思い出すと,彼はやっと少し怖くなってきました.
彼には,ことばの意味がよくわかっていたわけではないのですが,この大きな寺は「広い場所にいてはいけない」ということばにぴったりの場所のように思えたのです.
彼は寝るのに狭い場所はないものかと,寺の回りを捜しました.
彼はとびらのついた小さな木の箱を見つけました.たぶん何かをしまっておく場所なんでしょう.
彼は,深夜になって恐ろしい音に目を覚ましました.格闘したり悲鳴をあげたりしている音なのです.
彼はあまりの恐ろしさに,とびらを少し開けて様子を見ることもできませんでした.
あまり恐ろしかったので,音を立てずに息をひそめていました.
寺の明かりが消えました.しかし,恐ろしい音はやむどころか,ますますひどくなっていきます.
だいぶたって静かになりましたが,少年はまだ恐ろしくて箱の外へ出られません.
彼は陽の光がとびらを取りつけてある個所のすきまから入ってくるまで,じっと動かずにいたのです.
やがて彼は,この隠れ場所からたいへんゆっくりと注意深く外へ出ました.
最初に彼の目に映ったのは,寺の床が血まみれになっていることでした.それから,床のまん中に巨大なねずみの怪物が死んでいるのが見えましたが,これは牛よりも大きな化け物ねずみだったのです.
少年がふと見ると,前の晩に少年がかいた猫の口が,どれもまっ赤に血でぬれているのです.
少年はやっと,お化けねずみが自分のかいた猫に殺されたのだ,ということがわかりました.
それから,少年は初めて,賢明な老住職が「夜は広い場所にいてはいけない.狭い場所にいるんだよ」と言ったわけがわかりました.
彼のかいた猫のいくつかは,今でも日本では旅行者が見ることができるのです.
『猫の絵をかいた少年』というアメリカの短編小説をお送りしました.
原作者は,かつて日本に住んだことのあるラフカディオ・ハーンです.
「アメリカの声」では,来週も次のアメリカの短編小説をお送りします.お聞きください.
Reproduced by the courtesy of the Voice of America