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LITTLE WOMEN 若草物語 10-4
Chapter Ten The P.C. And P.O. ピクイック・クラブと郵便局 4
Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
会長が、週報を読みおわると、いっせいに拍手の音が起り、つぎにスノーダグラス氏が、ある提案をするために立ちあがりました。
「会長ならびに紳士諸君。」と、議会で演説するような堂々たる態度と調子ではじめました。「わたくしは、ここに一名の新会員の入会許可を提議したいと思うのであります。その人は、その名誉をあたえられるにふさわしい人物でありまして、入会されたならば、クラブの精神、週報の文学的価値に寄与するところ大なるものがありましょう。
そして、その人とは、ほかならぬテオドル・ローレンス氏です。ねえ、入れてあげましょう。」
ジョウの演説は、最後で調子がかわったので、みんな大笑いしました。けれど、すぐに、みんな気づかわしそうな顔をして、ひとりも発言しませんでした。
そこで、会長が、「投票によってきめることにします。」と、いい、
つづいて「この動議に賛成のかたは、賛成といって下さい。」と、大声でうながしました。
すると、おどろいたことに、ベスのトラシイ・タップマン氏が、おずおずした声で、「賛成」と、いいました。
メグとエミイ、すなわち、ピクイック氏と、インクル氏は、不賛成でありました。そして、まずエミイのインクル氏が立ちあがって、いと上品にいいました。「わたしたちは、男の子たちを入会させたくありません。男の子たちは、ふざけたり、かきまわしたりするだけです。これは、女のクラブですから、わたしたちだけで、やっていきたいと思います。」
ついで、メグのピクイック氏が、何かうたがうときにするくせの、ひたいの小さなカールをひっぱりながらいいました。「ローリイは、わたしたちの週報を笑いものにし、あとでわたしたちをからかうでしょう。」
すると、スノーダグラス氏は、はじかれたようにとびあがって、熱をこめて、
「わたしは紳士として誓います。ローリイはそんなことは致しません。
かれは書くのがすきで、わたしたちの書いたものに趣きをそえ、わたしたちがセンチメンタルになるのを防いでくれると思います。そう思いませんか?
わたしたちは、かれにすこししかなし得ませんが、かれはわたしたちにたくさんのことをしてくれます。よって、かれに会員の席をあたえ、もし入会すれば、よろこんで迎えたいと思います。」
いつも受けている利益をたくみに暗示されたので、ベスのタップマン氏は、すっかり心をきめたようすで立ちあがりました。
「そのとおりです。たとえ、すこしぐらいの不安はあっても、かれを入会させましょう。もしかれのおじいさんも、はいりたければ入会させてよいと思います。」
ベスのこの力ある発言に、みんなおどろき、ジョウは席をはなれて握手を求めに来ました。
諸君はわたしたちのローリイであることを頭にいれて、賛成といって下さい。」ジョウのスノーダグラス氏が、いきおいこんでさけぶと、
たちまち、賛成という三つの声がいっしょに聞えました。
「よろしい、ありがたいしあわせ! さて、それでは、時をうつさず、さっそく新会員を紹介させて下さい。」
と、ジョウは、戸だなを開けると、くずいれぶくろの上に、おかしさをこらえて顔をあかくして、ローリイがすわっていました。
このいたずらに、すっかりやられた三人が、「いたずら者。ひどいわ!」と、ぶつぶついっているあいだに、ジョウはかれをひき出し、会員章をあたえて席につかせてしまいました。
「きみたち、ふたりのずるいのにはおどろかされましたぞ。」と、ピクイック氏は、こわいしかめっ面をしようとしましたが、かえってにこにこ顔になってしまいました。
その新会員に、うやうやしく敬礼をして、きわめて愛想のよいようすでいいました。「会長閣下および淑女諸君、いや、これは失礼、紳士諸君、どうぞ自己紹介をお許し下さい。わたくしは、このクラブの末席をけがすサム・ウェラーと申します。」
「すてき すてき」と、ジョウはテーブルをたたきながらいいました。
「ただ今、わたくしを、じょうずにひっぱり出して下すった、忠実な友だち、そして、尊敬すべき後援者は、今夜のずるい計画については、すこしも責任はないのでありまして、これはすべてわたくしがたてた計画で、わたくしがむりをいって、やっと承知させたのであります。」 ローリイが、手をふりながらそういうと、
そのじょうだんが、おもしろくてしようがないというふうに、スノーダグラス氏は、「みんなじぶんのせいにしなくってもいいわ。戸だなにかくれることは、あたしがいい出したんだわ。」といいました。
「この人のいうことなど心にかけてはいけません。計画をしたわる者はわたくしです。
しかし名誉にかけて、二度とこんなことはしません。今後は、永久につづくこのクラブのために、大いに力をいたす考えであります。」
「ヒャ! ヒャ!」と、ジョウはフライ鍋のへりをたたきながらさけびました。
「つづけろ! つづけろ!」と、インクル氏は、会長がうやうやしく礼をしている間にいいました。
「おお、一言申しておきたいことは、小生の受けた名誉を感謝いたしたく、となり合う両国民の親善関係をふかめる一助として、庭のすみに郵便局をつくったことであります。
It's the old martin house, but I've stopped up the door and made the roof open, so it will hold all sorts of things, and save our valuable time. Letters, manuscripts, books, and bundles can be passed in there, and as each nation has a key, it will be uncommonly nice, I fancy. Allow me to present the club key, and with many thanks for your favor, take my seat." もとはつばめ小屋でしたが改造しました。手紙、原稿、本、小づつみ、なんでもとりつぎ、時間の節約に役だつと思います。両国民はそれぞれかぎをもちますわけで、ここにそのかぎを贈呈することをお許し下さい。」
ウェラー氏が、かぎをテーブルの上において、自席にもどると、さかんな拍手、さけび声が起りました。
つづいていろんな討議がおこなわれ、めいめい、かっぱつに意見をかわしました。
そして、新人会員のばんざいを、最後にとなえて散会しました。
たしかに、ローリイのサム・ウェラー氏の入会は、このクラブに生気をふきこみ、書くものでも、週報にちがったおもむきをそえました。
郵便局は、すばらしい考えでした。たくさんの奇妙なものがとりつがれました。
悲劇台本、ネクタイ、詩、漬もの、草花の種子、長い手紙、譜本、しょうがパン、ゴム靴、招待状、注意書き、小犬などでした。
ローレンス老人も、このあそびをおもしろがって、おかしな小づつみや、ふしぎな手紙や笑いの電報などを送って来ました。また、ローレンス家の園丁はマーチ家の女中ハンナにひきつけられ、本気で恋文を書いて来ました。
その秘密がばれたとき、みんなはどんなに笑いころげたことでしょう!
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani