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LITTLE WOMEN 若草物語 19-2
Chapter Nineteen Amy's Will エミイの遺言状 2
Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
ところで、この部屋には、流行おくれの服がいっぱいはいったタンスがあって、エスターはエミイに、それで自由に遊ばせました。その服を着て、長い姿見の前をいったり来たりして、わざとらしくおじぎをしたり、衣ずれの音をさせたりするのが、おもしろくてたのしみでした。
この日は、そんなことを、あまり夢中でやっていたので、ローリイの鳴らしたベルにも気がつかなかったし、そっと来てのぞいたのも知りませんでした。エミイは、青色のドレスと黄色の下着をつけもも色のふちなし帽子をかぶり、扇子を使ってすましてねり歩いたのでした。
She was obliged to walk carefully, for she had on high-heeled shoes, and, as Laurie told Jo afterward, it was a comical sight to see her mince along in her gay suit, with Polly sidling and bridling just behind her, imitating her as well as he could, and occasionally stopping to laugh or exclaim, "Ain't we fine? Get along, you fright! Hold your tongue! Kiss me, dear! Ha! Ha!" ローリイが、後でジョウに話したところによると、エミイがそうやって気どって歩いていくあとから、おおむのポーリーがそのまねをして歩き、ときどき立ちどまって、「きれでしょ、あっちいけ、おばけさん、おだまり、キッスして! ハッ! ハッ!」と、どなりましたが、それはとてもおかしな光景だったということでした。
ローリイは、おかしさのあまり、ふき出しそうになるのを、やっとこらえました。そして、ていねいに迎えられ、
わたし、エミイ・カーチス・マーチは、正気にて所有物全部を左記の如く分配します。
父上には一ばんいい絵、スケッチ、地図、額ぶちづき美術品。
母上には、衣類全部、ただしポケットのある青いエプロンはべつ。それから、わたしの肖像画とメダルを真心こめて。
メグねえさんには、トルコ玉の指輪(もしいただいたら)鳩のついている緑の箱と、首かざりのためのレース、姉上をかいたスケッチ。これは姉上の愛する妹のかたみ。
ジョウねえさんには、一度なおした胸ピンと、青銅のインクつぼ(ふたはおねえさんがなくした)それから、原稿を焼いたおわびに一ばん大切な石膏のうさぎ。
ベス(もしわたしの後まで生きていれば)には、人形、小さなタンス、扇子、麻のカラー、それから病気がよくなり、やせてなければ、新らしいスリッパ、
それから、わたしがいつも古ぼけたジョアンナのことをからかったことを、ここで後悔しておきます。
お友だちであり隣人であるローリイには、紙のかばんと、首がないようだとおっしゃったが、粘土細工の馬。
つぎに心配のときに親切にして下さったお礼に、わたしの絵のなかで気にいったものさしあげます。ノートルダムが一ばんよくできています。
大恩人ローレンス氏には、ふたに鏡のついた紫の箱、ペンいれによろし。わたしたち一家、ことにベスへの御厚意をありがたく思っていることを思い起させるでしょう。
なかよしのキティ・ブライアントには、青色のエプロンと、金色のじゅず玉の指輪を、キッスとともにあげる。
ハンナには、ほしがっている紙箱と、つぎはぎの細工を全部、わたしを思い出してもらうためです。
わたしの大切な所有品を全部処分せり、みなみな満足して死者を非難せざるよう望む。わたしはすべての人を許し、最後のラッパの鳴りひびくとき、みな再会することを信ず。アーメン、
この遺言状は、千八百六十一年十一月二十日、わが手によって認め封印す。
最後の名は鉛筆で書いてありました。エミイはかれにそれをペンで書きなおして、正式に封印してほしいといいました。
「どうしてこんなことを思いついたの? ベスが形見わけでもするというようなことを、たれから聞いたの?」
エミイは、そのわけを話してから、「ベスはどうですって?」と、訪ねました。
ベスこのあいだ大へんわるくなって、ジョウにいったの。ピアノはメグに、あなたに小鳥を、かわいそうな古い人形はジョウに。ジョウに人形をかたみとしてかわいがってほしいって。
ベスは、あまり人にあげるものないといって悲しがって、ぼくたちには髪を、おじいさんには愛だけをのこすんだって、
でもベスは遺言状のことはなんにも考えていなかった。」
ローリイは、そういいながらサインしていると、大きな涙のつぶがおちて来ました。
はっとして顔をあげると、エミイの顔には苦痛の色があふれ「遺言状には、二伸みたいなものをつけていいでしょうか?」
「じゃ、書きいれてちょうだい。あたしの髪みんな切ってお友だちに分けるって。
ローリイは、エミイの最後の大きな犠牲にほほえみながら書き足し、
「そうらしいんだ。よくなるように祈ろうねえ、泣いちゃだめですよ。」
ローリイは、にいさんのように、エミイの肩に手をかけてなぐさめました。
ローリイが帰ってしまうと、エミイは小さな礼拝堂にはいり、夕ぐれのあかりのなかにさわって、涙を流しながらベスのために祈りました。もし、このやさしい小さい姉をうしなったら、たとえトルコ玉の指輪が百万もらっても、あきらめられないと思われました。
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani