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LITTLE WOMEN 若草物語 20-2

Chapter Twenty Confidential うち明け話 2

Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
「ブルックさんのこと。かあさんはあの人のこと、このごろジョンさんといってるんです。病院でそんなふうによぶようになったもので。」
「まあ、そう、おかあさんはあの人のこと、味方するでしょう。
あの人はおとうさんに親切にしたんだし、もしメグさんが結婚したいといえば、おかあさんはあの人をしりぞけないでしょう。
ああ、いやしい! おとうさんのお世話をして、おかあさんにとりいって、じぶんを好きにさせるなんて。」
とジョウはまたいらだたしそうに髪をかきむしりました。
「まあ、そんなに怒らないでね、どういう事情か話してあげます。
ジョンさんは、ローレンスさんに頼まれて、かあさんといっしょにいって、つききりで看病して下すったので、あたしたちは好きにならずにはいられませんでした。
あのかたはメグについては公正明大で、メグを愛しているが、結婚を求める前にたのしく暮せる家を持てるように稼いでおきたいとおっしゃるんです。
あのかたは、メグを愛し、メグのためにはたらくことを許してほしい。そして、もしメグにじぶんを愛させるようになったら、その権利を許してほしいとおっしゃった。
あのかたは、りっぱな青年です。かあさんたちはあのかたのいうことに耳をかたむけずにはいられませんでした。けれど、メグがあんなにわかくて婚約するのは不承知です。」
「もちろんですわ。そんなばかな話。なにかわるいこと起ってると思ってました。
これじゃ予想していたよりもっとわるいわ。
いっそのこと、あたしがメグと結婚して家庭のなかに安全にしておきたいわ。」
 このおかしな考えに、おかあさんはほほえみました。けれど、またまじめな顔になって、「あなたには、うち明けましたが、メグにはいわないで下さい。
ジョンが帰って来て、二人があうようになったら、メグの気持がもっとはっきりわかると思いますからね。」
「おねえさんは、とても感じやすいから、あの人の美しい目を見たら、
ブルックさんはお金をかきあつめて、おねえさんをつれていき、家に穴をあけてしまいます。
あたしつまらない。なぜあたしたちは、みんな男の子に生れなかったんでしょう。」
 ジョウは、いかにもおもしろくないというようなようすをして、言葉をつづけました。
「おかあさんも、あんな人おっぱらって、メグには一言もいわないで、今までのようにみんなでおもしろくしましょうよ。」
あなたがたは、おそかれ早かれ、家庭を持つことが、しぜんな正しいことです。でも、かあさんはできるだけ長く、娘たちを手もとにおきたいから、この話があんまり早く起ったのを悲しく思います。メグは十七になったばかりだし、
おとうさんもあたしも、二十までは約束も結婚もさせないことにしました。
もしたがいに愛し合うなら、それまで待てるでしょうし、待っているあいだに、その愛がほんものかどうかもわかります。」
「おかあさん、おねえさんをお金持と結婚させたほうがいいと思いませんか?」
「かあさんは、娘たちを財産家にしたいとか、上流社会へ出したいとか、名をあげさせたいとか考えません。
身分やお金があるかたが、真実の愛と美徳を持っていて、迎えて下さるならよろこんでお受けもしましょうが、今までの経験からいえば、質素な小さな家に住んで、日日のパンをかせぎ、いくらか不足がちの暮しのほうが、かずすくないよろこびをたのしいものにしてくれるものです。
かあさんは、メグがじみな道をふみ出すのを満足に思います。メグは、夫の愛情をしっかりとつかんでいける素質があって、それは財産よりももっといいものです。」
「おかあさん、よくわかりました。あたしはメグをローリイと結婚させて、一生らくにさせてあげようと、計画していたんです。」
「ローリイは、メグより年下です。」
「そんなことかまうもんですか、あの人は、年よりふけているし、せも高いし、
「だけど、かあさんは、メグにふさわしいほどローリイが大人とは思いません。
そんなこと計画するものではありません。」
人間は、頭にアイロンでものせておけば、大人にならないものならいいけど、
つぼみは花になるし、子ねこはおやねこになるし、ああ、つまらない。」
 そこへ、書きあげた手紙を持って、メグがそっとはいってきました。「アイロンとねこが、どうしたの?」
「つまらない、おしゃべりをしてたの。あたし、もうねるわ。いらっしゃいな。」
 おかあさんは、手紙に目をとおして、「けっこうです。きれいに書けました。ジョンによろしくって、かあさんがいってると、書きそえて下さい。」
「あのかたのこと、ジョンとおよびになりますの?」と、メグはにこにこして尋ねました。
「そうです。あのかたは、家の息子みたいな気がします。あたしたちは、あのかたが、とても気にいりましたよ。」
「そう聞いて、うれしいと思いますわ。あの人、さびしいかたです。おかあさん、おやすみなさいませ。おかあさんが家にいて下さると、口でいえないほど安心ですわ。」
 おかあさんが、メグにあたえたキッスは、やさしく、メグが出ていくと、つぶやきました。「まだジョンを愛していないけど、まもなく愛するようになるでしょう。」
 
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani
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