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LITTLE WOMEN 若草物語 8-2

Chapter Eight Jo Meets Apollyon ジョウの原稿 2

Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
「エミイ、あなたですね。」
「あたし、持ってないわ。」
「じゃ、どこにある?」
「知らないわ。」
知らないとはいわさないわ。さあ、早い白状なさい。白状しないか。」 ジョウは、ものすごい顔でどなりました。
「いくらでも怒るがいいわ。あんなつまらない原稿なんか、もう出ないわよ。」エミイは、どうにでもなれというような、いいかたでした。
「どうして!」
「あたしが焼いちゃったから。」
「なに? あんなに苦労して、おとうさんがお帰りになるまでに書きあげるつもりの、あの大切な原稿を、
ほんとに焼いたの?」ジョウは、まっさおになり、目は血ばしり、ふるえる手でエミイにとびかかりました。
「ええ、焼いたわ。昨夜、いじわるしたからよ。おぼえていらっしゃいといったでしょう。」
「ばか、ばか! 二度と書けないのよ。あたし一生あなたを許さない。」
 メグもベスも、どうしようもありませんでした。ジョウは、エミイの横っつらをひっぱたいて、部屋をとび出し、屋根部屋のソファに身を伏せて泣きました。
 おかあさんは、帰宅してその話を聞き、エミイをしかりました。エミイはわるいことをしたと思いました。
ジョウは、お茶のベルが鳴ったとき、いかにもこわい顔をして出て来ました。エミイは、ありったけの勇気をふるい起して、
「ジョウ、ごめんなさいね、あたし、ほんとうにわるかったわ。」と、あやまりました。
 ジョウは、ひややかに、「許してあげるものか。」と、答え、エミイにとりあいませんでした。
そんなわけで、その晩はたのしくなく、みんなだまって針仕事をしました。おかあさんが、おもしろい物語を話しても、なにかもの足りなくて、家庭の平和は、すっかりみだされていました。
おもくるしい気分は、メグとおかあさんがうたっても晴れませんでした。
 おかあさんは、ジョウにおやすみなさいのキッスをしたとき、やさしい声で、「ねえ、怒りを明日まで持ち越さないように、今夜中にきげんをなおしましょうね。おたがいに、ゆるし合い助け合いましょう。明日からは、またたのしくね。」と、ささやきました。
 ジョウは、おかあさんの胸に、顔をうずめました。悲しみと怒りを、涙で流したかった。けれど、あまりにいたでは深く、
とうとう頭をふり、エミイに聞えよがしに、「あんまりひどいんですもの、許してやれませんわ。」
 そういって、ジョウは、さっさと寝室へいってしまったので、その夜はおもくるしい気分でおわりました。
つぎの日も、おもくるしい気分は去らず、みんなつまらなそうでした。ジョウは、ぷんぷんして、ローリイを誘ってスケートにでもいってみようと思って出かけていました。
メグは、エミイにむかって、「あなたがわるかったのよ。大切な原稿をなくされたんですもの、なかなか許せないわ。だけど、いいおりを見て、あやまればいいと思うの。
だから、あなたもスケートにいってごらんなさい。そしてジョウがローリイと遊んで、きげんがよくなったとき、ジョウにキッスしてしてあげるか、なにかやさしいことしてあげるのよ。そしたら、心から仲なおりしてくれるにちがいないわ。」
 この忠告が気にいったので、エミイはいそいそと仕度をして、後をおいかけました。
 
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani
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