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LITTLE WOMEN 若草物語 8-1
Chapter Eight Jo Meets Apollyon ジョウの原稿
1
Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
エミイが、土曜日の午後、ねえさんたちの部屋へいくと、メグとジョウが外出の支度をしていましたが、ないしょらしいので、「おねえさんたち、どこへいらっしゃるの?」と、尋ねました。すると、ジョウは
「どこへだっていいじゃないの、小さな子はそう聞きたがらないものよ。」と、つっけんどんにいいました。
「わかったわ! ローリイといっしょに、七つの城のお芝居を見にいらっしゃるのね。あたしもいくわ。おかあさんは、見てもいいとおっしゃったわ。あたしお小遣もあるし。」
メグは、なだめすかすように、「まあ、あたしのいうことをお聞きなさい。
おかあさんは、あなたの目がまだなおっていないから来週ベスやハンナといっしょに、いくといいって。」
エミイは、あわれっぽい顔をして、「いやだあ、おねえやんやローリイといく、半分もおもしろくないわ。ね、お願いだからいかせてよ。
長いことかぜひいて家にばかりいたんですもの、ねえ、おとなしくしますから。」と、せがむのでした。
「いっしょにつれていってはどう? あつ着させていけば、おかあさんだって、なにもおっしゃらないでしょう。」と、とうとうメグが、しかたがないというようにいいました。
「それなら、あたしいかないわ。二人だけ招待されたのに、つれていくのは失礼だわ。」
このジョウのいいかたや態度は、ますますエミイを怒らせました。靴をはきながら、エミイは、「メグねえさんがいいっておっしゃったから、あたしいきます。じぶんで切符買うから、ローリイにめいわくかけません。」
「あたしたちのは指定席よ。と、いって、あなた一人はなれていられないしさ、そうすると、ローリイがじぶんの席をゆずるでしょう。それじゃ、つまらない。
もしかしたら、ローリイが切符もう一枚買うかもしれないけど、それじゃずうずうしいわ。だから、おとなしく待っていらっしゃい。」ジョウは、仕度にあわてて、針で指をさしたので、ますますふきげんになって、エミイをしかりつけました。
エミイは泣き出しました。メグがなだめていると、階下でローリイがよんだので、二人は、いそいでおりていきました。
二人が出かけていくのを、エミイは窓から見おろして、おどかすようにさけびました。「今に、後悔するわよ。ジョウさん、おぼえていらっしゃい!」
「ばかな!」と、ジョウがやり返して、玄関の扉をぴしゃっと閉めました。
「七つの城」のお芝居は、とてもよかったので、三人はたのしく見物しました。
けれど、ジョウはときどき、きれいな王子や王女に見とれながらも、心にくらい影がさしました。
妹が、後悔するわよといった言葉が、あやしく、耳にのこっていたからでした。
ジョウとエミイは、前からよくはげしいけんかをしました。二人とも気がみじかく、かっとするとひどくめんどうなことになるのでした。
けれど、二人とも長く怒ることはなく、けんかの後では、たがいによくなろうとするのですが、
二人が家へ帰ったとき、エミイは知らん顔をして本を読んでいました。
ジョウは、帽子を二階へしまいにいきましたが、この前けんかをしたとき、エミイがひき出しをひっくり返したので、たんすやかばんや、たなの上などをしらべましたが、
なんともなっていないので、エミイがじぶんを許してくれたものと思いました。
けれど、それはジョウの思いちがいであることが、あくる日になってわかりました。
その日の午後ジョウは血相をかえて、メグとベスとエミイが話しあっているところへ、とびこんで来て、息をきらして尋ねました。「だれか、あたしの原稿とった?」
メグとベスは、いいえといいましたが、エミイは炉の火をつついてだまっていました。
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani