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LITTLE WOMEN 若草物語 9-2
Chapter Nine Meg Goes To Vanity Fair 虚栄の市 2
Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
マフォット氏は、ふとった老紳士で、メグのおとうさんを知っていました。マフォット夫人も、やはりふとった婦人で、メグをかわいがってくれ、
いよいよ、夜会があるという日、三人はみんなすばらしい服を着て、はしゃいでいるのに、メグはじぶんのポプリンの服のみすぼらしさに心がおもくなりました。
それでも、服のことなど、なんとも思っていないように、三人は親切にメグにむかって、髪をゆってあげようとか、かざり帯をしめてあげようとかいいましたが、
メグはその親切のなかに、じぶんの貧しさへのあわれをみてとり、いっそう心は重くなるのでした。
そこへ、女中が花のはいっている箱をもって来ました。アンニイが、
「ジョージから、ベルへ来たんだわ。」と、いいましたが、
女中は、手紙をさしだしながら、「マーチさんへと、使いの者が申しました。」と、いいました。
「まあ、すてき。どなたから? あなたに恋人があるとは知らなかったわ。」 みんなは、強い好奇心をいだきました。
「まあ、そうなの。」と、アンニイは、みょうな表情でいいました。 母からの手紙は、みじかいけれど、よい教訓でした。メグはポケットにしまいました。また、花はしずんだ気持をひきたててくれました。
その幸福な気持で、メグは、しだとばらをわずかとって、あとは気前よくわけましたので、メグのやさしさに心ひかれたようでした。メグが、みどりのしだを髪にさし、ばらの花を胸にさしたので、服はそのためにいくらかひきたって見えました。
リンカーン少佐は、あの目の美しい令嬢はどなたと尋ねましたし、マフォット氏は、メグの身体にばねみたいなものがある、ぜひメグとダンスするといいました。
こうしてたのしくしていたのに、温室のなかに腰かけて、ダンスの相手がアイスクリームを持って来てくれるのを待っていたとき、うしろで話す話し声をふと聞いて、メグは気分をこわされました。
「あの娘たちのうちの一人が、そういうことに、なったらたいしたものですよ。サリイがいってましたが、あの人たちは、このごろとても親しくしていて、それに、あの老人は娘たちに、まるで夢中になっているんですって。」
「それやマーチ夫人の計略ですよ。娘のほうではそんな気はなさそうだけど、」 そういったのは、マフォット夫人でした。
「あの子ったら、おかあさんからだなんてうそついて、花がとどいたら顔をあかくしたわ。いい服さえ着せたら、きれいになるでしょうに。
木曜日にドレス貸してあげようといったら、あの子、気をわるくするかしら?」
「あの子、自尊心は強いけれど、モスリンのひどい服しかないのだから、気をわるくはしないでしょう。それに今晩の服をやぶくかもしれないから、貸してあげる口実になるわ。」「そうねえ。あたしローレンスをよんで、あの子をよろこばしてあげましょう。そして、後で、からかってあげましょう。」
メグは、今のうわさ話に怒りをもやし、すぐにも家へ帰って、おかあさんに心の痛みを訴えたくなりました。けれど、メグの自尊心は、むろんそのことをさせるわけもなく、できるだけ、ほがらかにふるまったので、だれもメグの努力に気づきませんでした。
夜会がおわると、メグはほっとしました。ベットのなかで考えていると、ほてったほおに、涙が流れました。
あのおろかなうわさ話は、メグに新らしい世界を開いてくれ、古い平和の世界を根こそぎみだしてしまいました。
あわれなメグは、ねぐるしい一夜をあかし、おもいまぶたの、いやな気分で床をはなれました。
その朝は、だれもぼんやりしていました。娘たちが編物をはじめる気力が出たときには、もうおひるでした。
メグは、みんなが好奇心で、じぶんのことを気にしていることを知りましたが、
ベルが手をやめて感傷的ないいかたで、こういったので、なにもかもわかりました。
「ねえ、ひな菊さん、木曜日の会に、あなたのお友だちのローレンスさんに招待状を出しましたの。あたしたち、お近づきになりたいし、それに、あなたに対する敬意ですからね。」
「御親切にありがとうございます。でも、あのかた、いらっしゃらないでしょう。
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani