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LITTLE WOMEN 若草物語 9-4
Chapter Nine Meg Goes To Vanity Fair 虚栄の市 4
Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
「ひな菊マーチです。父は陸軍大佐で、あたしどもとおなじ一流の家がらですが、破産しましてね、ローレンスさんと親しいんです。家のネッドはあの子に夢中なんですよ。」
「おや、そうなんですの。」と、その老婦人はもっとよく見ようとして眼鏡をかけました。 メグは、聞えないふりをしましたが、夫人のでたらめにはあきれました。
笑いをたたえて、貴婦人らしくふるまっていました。ところがメグの顔からきゅうに笑いがきえました。正面にローリイの姿を見たからで、
その目はじぶんを非難しているではありませんか。ローリイは、笑っておじぎをしましたが、メグはこんな姿でなくじぶんの服を着ていればよかったと思いました。
メグは、そばへいき、「よくいらっしゃいました。お出でにならないと思っていました。」
「ジョウが、ぜひいって、あなたのようすを見て来てほしいというので来たんです。」
「どこの人だかわからなかったといいます。だって、まるで大人みたいで、あなたらしくないんですもの。」
「みんなでこんななりにさせたの、あたしもちょっとしてみたかったけど。ジョウびっくりするでしょうね?
年下の少年からいわれた言葉としては、あまりにするどく、メグはふきげんになって、「あなたみたいな、失礼な人、知らないわ。」と、いって、そこを去り、
窓ぎわへいってたたずみ、きゅうくつなドレスのために、ほてったほおを夜気にひやしました。
大好きなワルツの曲がはじまっても、そのままでいると、ローリイが来て、ていねいに手をさしのべました。
「失礼なこといって、お許し下さい。いっしょに踊って下さい。」
「いいえ、ちっとも、ぼくダンスしたいのです。そのドレスは好きじゃないけど、あなたはほんとうに、すてきです。」
メグは、にっこり笑って気持をやわらげ、二人は音楽に合せておどりはじめました。
家へ帰ってもあたしのドレスのこといわないでね、家の人々は、じょうだんがわからないし、おかあさんには心配させるから。」
「どうしてそんなものを着たんです?」 ローリイの目がなじっていました。
「どんなに馬鹿だったか、自分でお母さんにいうから、あなたいわないでよ。」
「いわないと約束します。でもきかれたらどういいましょう!」
「あたしがきれいで、たのしそうだったとだけ、いってちょうだい。」
「きれいだけど、さあ、たのしそうかしら? たのしそうに見えない。」
「ええ、たのしくないの。おもしろいことしてみたかったけど、やっぱり性にあわないわ。あきてしまうわ。」
このとき、マフォット家の若主人のネッドが来たので、ローリイは顔をしかめました。
「あの人、あたしに三回もダンスを申しこんでいるの。だから来たんでしょう。」 メグがいかにもいやそうにいうので、ローリイは、これはおもしろいと思いました。
ローリイは、それっきり夕飯のときまで、メグと話しませんでした。食事のとき、ネッドとその友達のフィッシャアを相手に、メグがシャンペン酒を飲むのを見たローリイは、だまっていられませんでした。
「そんなもの飲むと、明日、頭痛がしますよ。ぼくは飲みません。おかあさんだって、お気にいらないでしょう。」 ローリイは、ネッドとフィッシャアに聞かれないように、メグによりそって、そうささやきました。
「今夜は、あたし気ちがいみたいなお人形なの。明日からはいい子になるわ。」
「それじゃ、明日もここにいたいんですね。」 ローリイに、ついとはなれて立ち去りました。
メグは、踊ったり、ふざけたり、しゃべったり、ローリイがあきれるほど、はしゃぎました。
メグは、もう頭痛になやまされていましたが、「いいこと! 頼んだこと忘れないでね。」と、むりに笑顔をつくっていいました。
「死をもっての沈黙」と、ローリイは、フランス語で、芝居がかりで答えて立ち去りました。
メグは、もう疲れきっていました。わびしい気分で床にはいりましたが、
あくる日も一日気分がわるく、土曜日になって、二週間の遊びと、ぜいたくざんまいにあきあきして家へ帰って来ました。
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani