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Sherlock Holmes Collection シャーロック・ホームズ コレクション
A Study In Scarlet 緋色の研究 第一部 第六章 3
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
それに、吾輩どもも、色々なことをすでに知っているのですぞ。』と一押しすると、
夫人は『あんたのせいだよ、アリス!』と言って吾輩の方を向き、『すべてお話しします、刑事さん。
私が息子を心配しておりますのは、息子がこの恐ろしい事件にかかわっているからではございません。
ただ心配なのは、あなた方の目には、息子が怪しく見えるかもしれないからで。
息子の清廉な性格、職業、経歴を見ても、けしてそんなことはないと。』
大丈夫、息子さんが無実なら、なんてことないはずです。』
『アリス、あんたは席を外すんだよ。』と夫人が言って、娘は退出しました。
夫人は言葉を続けて、『あの、刑事さん。ずっと黙っているつもりだったのですが、あのバカ娘がばらしてしまいましたので、観念しました。
いったん話すと決めた以上、何も包み隠さず申し上げましょう。』
夫人はこう言いました。『ドレッバーさんは三週間近くお泊まりでした。
あの男と秘書のスタンガスンさんは大陸を旅してきたんです。
二人のトランクにはコペンハーゲンの札がついておりましたから。きっと前にいた街なのでしょう。
スタンガスンは無口の控えめな男でしたが、雇い主の方は、こう申しては何ですが、正反対です。
あの男、することは下品で、野獣のような身の振る舞い。
到着したその夜に、もう酔っ払っておりまして、それからというもの、昼の一二時を過ぎてしらふだったことは一回もありません。
あの男がうちの女中に見せる態度といったら、好き勝手でなれなれしく、吐き気がするほどです。
こともあろうに、うちのアリスにもすぐ手を出しまして、一度ならずもあの口ぶりで迫ったのです。幸いアリスは無垢ですから、わかりませんでしたけど。
あるときなんか、あの男はアリスに腕を回して、抱きついたりもしましたが、さすがに秘書の方が礼儀に反するとお諫めになってくださって。』
あなたの一存で、下宿人を追い出すこともできましょう?』
この吾輩の質問は的を射たものでして、シャルパンティエイ夫人も顔を赤くしました。
『できるなら、あの男が来たその日にそれを言いたかった。
あの男は、一人一日一ポンドくれると――一週間で一四ポンド。この不景気なご時世、
けれども、先日はあまりにひどくて、我慢できず、ついに言ってやりました。それが、あの男の出て行った理由です。』
『すかっとしました、あの男が馬車で遠ざかっていくんです。
息子はちょうど休みだったんですが、何も言いませんでした。息子はかっとなりやすいたちで、妹のこととなったら、前が見えなくなるものですから。
あの男を見送って戸を閉めた瞬間、心が軽くなったような気がしました。
でも、一時間も経たないうちに呼び鈴が鳴って、ドレッバーさんが帰ってきたと知ったのです。
相当興奮した様子で、泥酔していると一目で分かりました。
私と娘が一緒にいたところ、あの男は無理矢理部屋に入ってきて、列車に乗り遅れただの何だの、めちゃくちゃなことを言い散らしてから、
アリスの方を向いて、私の目の前で、一緒に駆け落ちをしようなんて言うんです。
こんな婆なんて放っておいて、今から俺についてこい。
かわいそうにアリスはおびえきって、逃げ出しましたが、あの男、アリスの手首をつかんで、戸口まで引きずっていこうとするんです。
私が悲鳴をあげると、その瞬間に息子のアーサが部屋に入ってきました。
次に見たとき、アーサは戸口に立って笑っていまして、手には棒を。
「これでもう、やつに手を焼かずに済む。ついでについていって、どうなるか見届けてやる。」そう言って
翌朝、私たちはドレッバーさんの変死を知ったわけです。』
シャルパンティエイ夫人の口から出た証言は、息も切れ切れ、途切れ途切れで、
小さな声で話すもんですから、言葉のよくわからんところもありましたが、
吾輩、夫人の発言を逐一速記しておりましたので、これに間違いはありません。」
「心躍る話だ。」とシャーロック・ホームズはあくびをしながら、
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