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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Blue Carbuncle 青い紅玉 4

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 便利屋が退室すると、ホームズは宝石を取り上げ、光にかざして見せた。
「麗しい。」と言葉が出る。
「見たまえ、この輝き、この艶。
確かに、これは犯罪の核であり、焦点だ。
良き宝石はすべからく……悪魔のお気に入りの餌。
大きく古い宝石ほど、その彫面ひとつひとつに、血の業が現れるのだろう。
この宝石はまだ二十歳にもならない。
中国の南、厦門川の岸べで発見された。特徴としてはどこからどう見ても、炎の石であるカーバンクルそのものなのだが、ただし色味だけが青。真紅ではなく。
年こそ浅いが、その歴史にはすでに影が差している。
殺人が二度、硫酸沙汰と自殺が一度ずつ、そして盗難が幾度も起こった。この四〇グレインの炭素結晶のために。
誰が思うだろう、この小さく愛らしい石が、絞首台と監獄への御用達であると。
さてこの石は私の貴重品入れへしまい込んで、伯爵夫人へは僕らが持っていると電報を打とう。」
「ホーナというこの男は無実かな?」
「どうだろう。」
「なら、もうひとりの男、ヘンリ・ベイカーがこの件に関与していると?」
「僕の考えでは、ヘンリ・ベイカーはまったく無実である可能性の方がずっと高い。運んでいた鳥が、同じ大きさの金塊よりもすこぶる価値があろうとは、思ってもいなかっただろう。
だがそれでも、ごく簡単に試して見定めることになる。広告に応じてきた場合は。」
「そのときまで、君にもできることはなしか。」
「ない。」
「なら、私は私で、一回り往診をしてくるよ。
だが今晩、君の指定した時刻までには必ず戻ってくる。これほどもつれた事件だ、解決をぜひとも見たい。」
「来てくれてありがとう。
僕は七時に晩餐だ。
山鴫があったな。
時に、近頃の出来事を考えると、きっとハドソンさんに頼んで、餌袋を調べてもらった方がよさそうだ。」
 私はある患者に手間取り、六時半を少し過ぎてようやくベイカー街へ舞い戻った。
家に近づいていくと、長身の男が目に入った。スコッチ帽をかぶり、外套は顎のところまで釦を留めていた。採光窓から漏れ出る半円形の明かりの下、外で何かを待っている。
私が到着すると同時に戸が開けられ、その男と私は一緒にホームズの部屋に通された。
「ヘンリ・ベイカーさん、ですね。」ホームズは肘掛椅子から立ち上がり、うち解けた暖かい調子でその訪問客を迎えた。男もすぐに落ち着いたようだ。
「さあ、椅子を暖炉にお寄せください、ベイカーさん。
今夜は冷えます、あなたの場合、血の巡りは冬よりも夏の方がずっといいでしょう。
ああ、ワトソン、ちょうどいい時機に来た。
こちらはあなたの帽子ですか、ベイカーさん?」
「ええ、間違いなく私のものですな。」
 ベイカー氏はなで肩の大男で、頭も大きかった。広い額は知性を感じさせ、そこからくすんだ茶色い鬚の生えた顎がとがるようにのびていた。
鼻と頬がほんのり赤く、伸ばした手も小刻みに震えており、習慣についてのホームズの推理を思い起こさせた。
色の褪せた黒いフロックコートは前の釦がみな留められ、襟も立っている。華奢な手首が袖から伸びているが、カラーもカフスもないようだった。
男はゆっくり途切れ途切れに、言葉を慎重に選びながら話し始めた。学がありながら運命の手に翻弄されてきた男、という印象を全体から感じる。
「数日のあいだ、お預かりしておりました。」とホームズが言う。「あなたから住所を知らせる広告が出るとばかり思っておりましたので。
弱りました、道理でお出しにならないわけです。」
 我々の訪問客は、気恥ずかしそうに笑う。
「銀貨は、かつてほど私にまわってこなくなりました。」と男が述べる。
「てっきり、私を襲った荒くれ者の一団が、帽子と鳥を持ち去ったのだと思っておりました。
帰ってくる見込みのないものに、あまりお金を費やしたくなかったのです。」
「ごく当然のことです。
時に鳥のことですが、あれは食べるしかありませんでした。」
「食べたですと!」我々の訪問客は、興奮のあまり椅子から腰を浮かせる。
「ええ、そうしないと、鳥も無駄になるだけでしたので。
ですが、よろしければ、別の鵞鳥がそこの食器棚にあります。だいたい同じ重さでごく新しいものですから、それで代わりにはならないでしょうか?」
「ああ、じゅうぶん、じゅうぶんです。」とベイカー氏はほっと息をつく。
「もちろん、まだ元の鳥から羽も脚も餌袋も何も残っておりますから、ご希望でしたら――」
 いきなり男は朗らかに笑い始める。
「事件の記念に、というのは確かに面白いですが、詩人の言うように、そういう用途以外に、亡き旧友の〈肉片〉なるものはどう扱ってよいかわかりませんからな。
結構です、ご迷惑でなければ、あそこの食器棚に見える見事な鳥だけということにしたいと思うのですが。」
シャーロック・ホームズは、わずかにふるえる男の肩越しに、私へ向かって鋭い視線をちらと送ってきた。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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