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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Dancing Men 踊る人形 5

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 マーティン警部は物わかりもよく、我が友人を自由にやらせてくれ、ただその結果を見守るだけで満足のようだった。
地元の医者である白髪の老人が、ちょうどヒルトン・キュービット夫人の部屋から降りてきた。その話によれば、傷は深いが命に別状はないとのこと。
弾が額を割っており、意識を取り戻すにはしばらく時間がかかるそうだ。
誰かに撃たれたのか、彼女が自分で撃ったのか、医者ははっきりとした所見を述べなかった。
しかし至近距離から発砲されたことは確かだった。
室内には拳銃が一丁だけあり、弾倉がふたつ空になっていた。
ヒルトン・キュービット氏は心臓を打ち抜かれていた。
判断しがたいのは、旦那が妻を撃ってから自殺したのか、それとも妻が犯人なのか、ということだ。なぜなら、リヴォルヴァはふたりのあいだの床に落ちていたからである。
「遺体はそのまま?」とホームズは医者に訊ねた。
「はい、奥さんのほかは何も。
けが人を床の上に放ってはおけませんからの。」
「先生はいつ頃おいでです?」
「四時ですな。」
「誰かと一緒に?」
「ええ、そこのお巡りと。」
「で、何も触れていない。」
「そうですとも。」
「賢明な処置です。誰に呼ばれました?」
「女中のソーンダズです。」
「その女が第一発見者ですか?」
「その女と、炊事をやっとるキングのおかみです。」
「ふたりは今どこに?」
「台所じゃないかの。」
「では、早速ふたりの話をうかがわねば。」
 樫の板壁と高い窓のある古い広間が、聴取の場所にあてられた。
古風な大型の椅子にホームズは腰掛け、そのやつれた顔に鋭い眼光を光らせる。
私はその目に、ついに救えなかった依頼人に報いるまでは、命をかけても捜査にのぞむという決意の色を読み取った。
そこへ、身だしなみのよいマーティン警部、白髪の老医師、私、ぼんやりした村の巡査が、妙な同席人として加わるのだった。
 そのふたりの女はわかりやすく話してくれた。
ふたりは何かバーンという音に目を覚ましたが、一分ほどしてさらにもう一発が聞こえた。
ふたりは隣り合わせの部屋で寝ており、キングのおかみがソーンダズの部屋へかけこんだ。
そしてふたりが一緒に階段を下りると、
書斎の扉が開いていて、ローソクが一本、卓上にともっていた。
そしてふたりの雇い主が、うつぶせになって部屋の真ん中に倒れていた。
息はなかった。
窓のそばにその妻がうずくまっており、壁に頭をもたせかけていた。
重傷で顔じゅう血で真っ赤だった。
ぜいぜい息をするだけで、何も言えない状態だった。
室内はもちろん、廊下にも煙が充満し、火薬の臭いがした。
部屋の窓は確かに閉められて、内側から鍵もかかっていた。
ふたりの女は、この点に関して自信をもって保証した。
ふたりはすぐに医者と駐在所に人をやって、
それから馬番と手伝いの少年の手を借りて、負傷した女主人を自室へ移した。
彼女とその夫は、いったんは床についている。
女の方は普段着だが――男の方は寝間着の上に、化粧着ドレッシング・ガウンを重ねていた。
書斎の中は一切動かされた形跡がなかった。
ふたりの知る限り、夫婦のあいだに諍いのあったためしはなく、
ふたりは仲むつまじいとしか思えなかった。
 以上のことは女中たちの証言の大要であるが、
マーティン警部に答えた言葉では、扉という扉はすべて内側からしっかりと鍵がかけられてあって、誰かが家の中から逃げ出したはずはない、とのことであった。
それからホームズの問いに対しては、火薬の臭いがしたのは、一番上の自分たちの部屋を飛び出したときであった、と答えた。
「この事実を、よく覚えておいてください。」と、ホームズは捜査仲間に言った。
「今度は、部屋を徹底的に検分する時間です。」
 書斎は小さな部屋であった。三方には本棚があり、書き物机は何の変哲もない窓に向かって置かれ、そこから庭が見渡せた。
まず我々は第一にこの不幸な地主の遺体を調べた。そのがっしりとした体躯が、部屋を横切るように倒れていた。
着衣は乱れており、あわてて起きたことを思わせた。
弾は正面から撃たれ、心臓を打ち抜いたあと、体内に残ったらしい。
即死で苦しむ暇もなかったはずだ。
硝煙は化粧着ガウンにも手にも残っていなかった。
老医師の話では、妻も顔にはそのあとがあるものの、手にはなかったとのことだ。
「手にないだけでは何もわからない。――もっともあれば、一目瞭然だが。」とホームズは言った。
「弾の込め方がまずくて火薬が後ろへ吹っ飛ばない限り、何発でも跡を残さず撃つことができる。
キュービット氏の遺体はもう動かしてもよろしいでしょう。
それから先生、夫人を撃った弾は、まだ摘出してませんね?」
「そのためには大手術が要りますからな。
しかしリヴォルヴァには四発残っておって、
二発で二人負傷、勘定はぴったりですな。」
「一見は。」というホームズの声。
「しかし、あの窓の縁を貫いている弾も、しっかり勘定に入れねば。」
 さっと振り返り、ホームズはやせた長い指で一点を指さした。下側の窓枠、床から一インチのところに、何かに貫かれた穴があった。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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