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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Dancing Men 踊る人形 6

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「本当だ!」警部が声を張り上げた。
「どうしてあんなものに目がとまったのですか?」
「探していたからです。」
「これは恐ろしい!」老医師は言った。
「仰せの通りですな。
三発目が撃たれとるとすれば、第三者がおるわけで、
だが、何者がここにおって、なんぞの方法で逃げたんかの?」
「それこそ、今取り組んでいる問題です。」とシャーロック・ホームズが言った。
「ほら、マーティン警部、女中たちが部屋を出てすぐ火薬の臭いがしたと言ったとき、この点はきわめて重要だと言っておきましたね?」
「ええ、先生。しかし、よくわからなかったのです。」
「つまり、発砲されたとき、部屋の扉も窓も開いていたということです。
でなくば、あの速さで火薬の煙が家中に立ちこめるわけがない。
ふっと、ひとかぜ部屋を吹き抜けねば。
ドアと窓が開いていたのは、ほんのわずかな時間なのです。」
「なぜわずかだと……?」
「ロウの流れ跡がありません。」
「見事だ!」警部は叫んだ。「見事です!」
「惨劇のときまさに窓が開いていたとすれば、間違いなく現場には第三者がおり、開いていた窓の外に立って、そこから中へ向けて発砲。
そしてその者へ向けて撃った一発が窓枠に当たったはず。
見ると、そこに果たせるかな弾痕があった!」
「ですが、窓が閉められ鍵までかかっていたのはどういうわけでしょう?」
「女というものは、どんなときでも反射的に窓をしめて鍵をかけてしまうのです。
しかし、む! 何かな?」
書斎の机に、婦人用のハンドバッグがあった。小型でしゃれた鰐皮、銀の細工があった。
ホームズは中身をひっくり返したが、
イングランド銀行の五十ポンド紙幣二十枚が、伸縮ゴムでしばられていたが――それだけだった。
「保管しておきましょう。公判で必要でしょうから。」と言いながら、ホームズは詰め直したバッグを警部に手渡した。
「では、次はこの三発目の弾に焦点を当ててみましょう。これはもっとも、木の裂け具合を見ても、室内から撃たれたものです。
炊事婦のキングさんに話がある。
さて、キングさん。あなたは何かバーンという『大きな』音がした
と言ったが、これは一発目が二発目より大きかったということですか?」
「はあ、その音で目が覚めたのですが、よくはわかりかねます。
とにかく大きかったかと。」
「一度に二発撃ったとは考えられませんか?」
「何とも言いかねます。」
「僕の考えでは間違いないのだが、
さてマーティン警部、もうこの部屋でわかることはこれ以上ないかと。
家の周囲をめぐって、庭にあるはずの新たな証拠を見に行きましょう。」
 書斎の窓の下から花壇が続いているのだが、我々はそこに近づいてみて、あっと驚かされた。
花は踏みにじられ、軟らかな土の上には、足跡が至る所についていた。
それは男性の大きな足跡で、とりわけつま先の尖った靴のものであった。
ホームズが草木のあいだを、猟犬が撃たれた鳥を探すがごとく調べた結果、
満足げな声とともに前へかがみ、小さな真鍮の筒を拾い上げた。
「思った通りだ。」ホームズが言った。「蹴子しゅうし付きのリヴォルヴァなら、ここに三発目の薬莢があるはず。
ですから、マーティン警部、これで事件もほぼ解決です。」
 この地元警部の顔からは、ただあっけにとられたのがわかるだけだった。ホームズの捜査があまりに手際よく、巧みであったからだ。
最初のうちは立場上、多少口を挟もうとしていたが、今はもう観念して、ホームズの行くところに疑いもなくついてくるだけであった。
「容疑者は誰でしょう?」と警部が訊ねた。
「いずれお話しします。
この問題には、まだ数点説明しかねることがあるのです。
しかしここまで来ましたから、そのままやりきってしまった方がよいでしょう。それからすべての種明かしを、一度にするということで。」
「どうぞどうぞご随意に、ホームズさん。犯人逮捕さえできれば。」
「秘密にしたいというわけではなく、物事を進めながら長く込み入った説明をするのは難しいのです。
事件の筋はすべて僕の手中にあります。
万一ご婦人に意識が戻らずとも、昨晩の事件を再構成し、正義を行うことができます。
まず、この付近の宿で、『エルリッジ』という名のものがあるか、確かめられますか?」
召使いたちによく訊ねてみたが、聞いたことのある者はいなかった。
馬番の少年だけ手がかりを持っていて、記憶によれば、そういう名前の農場主が、数マイル先、東ラストンの方角にいるらしかった。
「さびれた農場かね?」
「ええ、さびれまくりです。」
「では、その人たちは、夜の事件のことをまだ何も知らない?」
「ええ、たぶん。」
ホームズはほんのしばらく考えをめぐらせると、ふしぎな笑みを浮かべるのであった。
「では君、馬の用意をして、
ひとつ書き付けをそのエルリッジ農場へ持って行ってくれないか。」
ホームズは懐から、踊る人形の紙切れをすべて取り出し、
前に並べてしばらく書斎の机に向かった。
やがて一枚の書き付けをその少年に渡し、これをこの宛名の人に手渡し、またどんな質問をされても決して答えないよう、くれぐれも言い含めた。
書き付けの表面を見ると、宛名が、いつものホームズの綺麗な筆跡とは似つかない、めちゃくちゃな字で書き殴ってあった。
ノーフォーク州、東ラストン、エルリッジ農場、エイブ・スレイニ宛とされていた。
「ひとつ警部、」とホームズは声を張る。「電報で護送隊を要請した方がよいかと存じます。僕の計算が確かなら、警部はこれから極悪犯を州刑務所へ送らねばなりません。
書き付けを持って行くこの少年に、その電報を届けさせましょう。
午後にロンドン行きの汽車があれば、ワトソン、うまく乗れそうだ。愉快な化学分析を終わらせてしまいたいし、この捜査もまもなく幕切れとなる。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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