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His Last Bow シャーロック・ホームズ最後の挨拶

The Adventure of the Devil's Foot 悪魔の足 11

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「これで全部話した。
残りはあんたが言ったとおりだ。
俺は、そうとも、眠れぬ夜を過ごした後、朝早くコテージを出発した。
あいつを起こすのは簡単じゃないと見こんでいたから、あんたの話に出た小石の山から砂利を集め、窓に向かって投げつけた。
あいつは居間に降りてきて、窓から入るように言った。
俺はあいつの罪を並べたて、
裁判官と死刑執行人の両方としてやってきたのだと言ってやった。
あいつは、リボルバーを目にすると麻痺したようになり、椅子に沈みこんだ。
部屋から出ようとすれば撃つと脅しつけ、ランプに火をつけて粉薬を載せ、窓の外に立って、銃を構えた。
5分後、やつは死んだ。
ああ! その死にざまといったら! 
だが、俺の心は微動だにしなかった。罪もないブレンダの苦しみにくらべれば何でもないことだったんだ。
俺の話は以上だ、ミスター・ホームズ。
たぶん、愛する女がいれば、あんたも同じようなことをやっただろうよ。
ともかく、俺はそっちの手に内にある。
好きなように手を打ってくれ。
前にも言ったとおり、俺以上に死を恐れないやつはいない」
ホームズはほんのしばらく沈黙したまま座っていた。
「予定はどうなっていたのですか?」やがて、ホームズはそう尋ねた。
「中央アフリカに骨を埋めるつもりだった。
俺の仕事はあそこにあるが、まだ半分しか仕上がっていない」
「お行きなさい。そして、残り半分を仕上げなさい」と、ホームズ。
「少なくとも私は、進んであなたの邪魔をしようとは思いません」
ドクター・スタンデールは長身を起こすと、厳粛に一礼して東屋から歩み去った。
ホームズはパイプに火をつけると煙草入れを私に手渡した。
「毒性のない煙を吸うのもいい気分転換になるだろう」と、ホームズが言った。
「君もきっと賛成してくれると思うけどね、ワトスン、今回の件は解決せよと正式に依頼された事件じゃない。
我々は自由な立場で捜査してきたし、自由な立場で行動していいと思うよ。
彼を訴えようなんて思わないだろう?」
「もちろん」と、私は答えた。
「ワトスン、僕は誰かを愛したことがない。だけど、仮に僕が誰かを愛したとして、仮にその女性が無惨な最後を遂げたとしたら、あの無法なライオンハンターと同じことをやったかもしれないな。ひょっとしたらね。
さてワトスン、要点を説明するけれど、別に君の知性を馬鹿にしているわけじゃないよ。
窓枠にあった砂利が言うまでもなく捜査の出発点だった。
牧師館の庭では見られない種類の砂利だ。
ドクター・スタンデールに注意してみると、ちょうどコテージの庭でよく似たものを見つけたよ。
明るい日光の下で輝くランプ。外装の上に残された粉薬の残骸。このふたつは、1本の確かな鎖で繋がっていた。
それじゃあワトスン、この問題を頭の中から追い払って、澄みきった心でカルデア語の起源を研究し直そう。きっと、偉大なるケルト口語のコーンワル語派にさかのぼることができるはずだよ」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha
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