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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Norwood Builder ノーウッドの建築家 10

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
この部分には木摺と漆喰が施され、6フィート先の廊下の端で終わっている。そこにドアがうまく隠されていた。
庇の下にある隙間のおかげで明るかった。
中には家具が少しと、水や食糧の貯えがあり、同じく大量の本と書類もある。
「ここに建築家であることの利点がある」と、揃って外に出ながら、ホームズが言った。
「誰の手も借りずに、この小さな隠れ家をこしらえることが可能だった――ただし、もちろんあの重宝な家政婦は除く。あの女も今すぐ押さえておくべきだろうね、レストレイド」
「ご忠告にしたがいましょう。
でも、どうやってこの場所が分かったんですか、ミスター・ホームズ?」
「僕はこの男が家の中に隠れていると判断した。
この廊下の長さを測ると、下の廊下よりも6フィート短い。それでこの男の居場所が分かったんだよ。
流石のこいつも、火事騒ぎを前にすれば大人しく寝転んでいられないだろうと思った。
もちろん、中に踏み込んで捕まえることもできたけど、本人から姿を見せてもらうのが僕には面白くてね。
それに、ちょっと君を戸惑わせてやりたかったのさ、レストレイド、今朝の冷やかしのお返しに」
「なるほど、確かに同じだけのお返しは受けましたよ。
ですが、いったいどうしてあの男が家の中にいるんだと?」
「指紋だよ、レストレイド。君はこれで決まりだと言った。そうとも、だけど意味が全然違うんだ。
僕はあの指紋が昨日はなかったと知っていた。
僕は、細かいところまで多大な注意を払うようにしているんだけど、君も目にしてきたかもしれないな、あのホールもよく調べておいたんだ。だから、壁に何もなかったのは間違いない。
そうすると、あの指紋は夜の間につけられている」
「でもどうやって?」
「きわめて簡単に。あの封筒に封をするとき、ジョナス・オールデイカーがマクファーレンに固まっていない蝋を指で押させたんだろう。
自然に、速やかに行われたので、マクファーレンは恐らく覚えていない。
偶然そうなった可能性もきわめて高いし、オールデイカーにもそれを利用するつもりはなかったんだと思う。
巣の中で事件のことをじっくり考えていると、突如、指紋を使って作り出せる致命的な証拠を思いついた。
あの男にはまったく簡単なことだった。封から蝋で型をとり、ピンの傷から採れるだけの血で湿らせ、夜間、壁の上に押しておく。自分の手か、あるいは家政婦の手で。
避難所に持ちこんだ書類を調べれば、指紋が残された封が見つかるはずだ。賭けてもいいよ」
「すばらしい!」とレストレイド。
「すばらしい! ご説明のとおりです、みんなはっきり分かりましたよ。
でも、この狡猾な詐欺の目的は何だったんですか、ミスター・ホームズ?」
警部の威張りくさった態度が、突如、教師に疑問点を尋ねる子供の態度に変わったのが面白い。
「そうだね、説明はたいして難しくないと思うよ。
下で僕らを待っている紳士は、きわめて狡猾で、悪質で、復讐心に満ちた人物だ。
マクファーレンの母親から拒絶された話は知っているね? 
知らないのか! ノーウッドより前にブラックヒースに行くべきだと言っただろう。
まあいい、この傷は、彼にはそう思えたんだろうけど、この陰謀家の頭脳を苦しめつづけた。彼は、毎日毎日、復讐を切望してきた。ところが、チャンスがない。
去年か一昨年、いろいろとうまくいかず――秘密の投資だね、たぶん――ひどい状態になった。
債権者相手に詐欺を働くことに決めた彼は、多額の小切手をミスター・コーネリアスに切った。これはね、たぶん、オールデイカー自身の偽名だよ。
小切手については、まだよく調べていないけど、どこか田舎街の銀行にコーネリアス名義で預金されているに違いない。ときどき、オールデイカーはその街で二重生活をしていたんだろうな。
名前を変え、金を引き出してから、失踪して新しい生活をはじめるつもりだった」
「なるほど、十分ありえることです」
「失踪すれば、自分の後を追う連中を振り切れるかもしれない。それと同時に、昔の恋人の一人息子によって殺害されたという印象を残せれば、彼女に手痛い復讐を下せる。そう思いついたのさ。
悪事の芸術だよ、そしてオールデイカーは芸術家のようにそれを実行した。
犯行の動機がはっきりとあらわされている、あの遺言書。両親にも知らされない内密の訪問。残されたステッキ。血痕。木材の中のボタンと動物の亡骸。どのアイデアも賞賛に値する。
数時間前までは、どこにも逃げ道のありえない網のように思えたよ。
だけど、あの男には、芸術家としての最後の才能、止めるべき時を知るという才能がなかったんだ。
すでに完璧なものを改善しようとし――不運な犠牲者の首を絞めあげるロープをさらに強く引こうとして――すべてを水の泡にしてしまった。
下へ降りよう、レストレイド。少し聞いておきたいことがあるんだ」
悪人は、二人の警官にはさまれて、自分の応接室に腰を下ろしていた。
「ジョークだったんです、警部さん。悪ふざけ、ただそれだけです」と、オールデイカーの哀れっぽい訴えはとめどない。
「本当です、私が失踪したらどうなるのかを見たくて隠れていただけなんです。私が、あの若いミスター・マクファーレンを傷つけようとしたなんて想像するのは不公正です。きっと、あなた方はそんなひどい人じゃないはずです」
「それは陪審員が決めることだ」と、レストレイド。
「いずれにせよ、殺人未遂がだめなら共同謀議で告発してやる」
「それから、おそらく債権者のみなさんはミスター・コーネリアスの口座を差し押さえることでしょうね」と、ホームズ。
小男はぎくりとして悪意に満ちた目をホームズに向けた。
「大いに礼を言う必要がありますね。
いずれ、このご恩はお返しいたしましょう」
ホームズは穏やかに微笑んだ。
「たぶん、数年は非常にお忙しい体になられると思いますよ。
ところで、木材の間に忍ばせたのは、古いズボンと、何だったのですか? 
犬の死骸? それとも兎? それとも? 教えてくださらないんですか? 
ああ、なんと不親切な! 
まあよし、とりあえず兎の2羽で、血痕と消し炭とを説明しておきましょう。
文章にするときはさ、ワトスン、兎に働いてもらうんだね」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha
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