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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Norwood Builder ノーウッドの建築家 9

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
5分後、3人の警官がホールに揃った。
「納屋にかなりの藁があるはずです」とホームズ。
「2束、もってきていただくようお願いしましょうか。
あの証人を連れてくるのにもっとも役に立つ小道具でありましょうからね。
どうもありがとうございます。
ポケットにマッチはあるかい、ワトスン。
さあ、ミスター・レストレイド、上の踊り場までお越し願いましょうか」
前にも言ったとおり、最上階には広い廊下があり、内側に空の寝室が3つ並んでいた。
廊下の端で、我々はみなシャーロック・ホームズの指揮の元に整列させられたが、警官たちはにやにや笑っているし、レストレイドの瞳の中では、驚き、期待、嘲笑がお互いに追いかけあいをしていた。
ホームズは、トリックを実演中の奇術師のような雰囲気で我々の前に立った。
「部下の方お1人を、バケツに2杯分、水を汲みに出していただけますか? 
藁はここの床にどうぞ、壁から離して置いてください。さて、準備が完全に整いました」
レストレイドは、顔を真っ赤にして怒り始めた。
「我々を相手にお遊びでもやっているんですか、ミスター・シャーロック・ホームズ。
もし何かを知っているのでしたら、こんな馬鹿げた真似をせずに、それを言ってくれてもいいでしょう」
「だからね、レストレイドくん、僕のやることにはすべて完璧な理由があるんだよ。
僕をちょっとばかり冷やかしたのを思い出してくれるかい? 数時間前、太陽が君の方に出ていたように見えたときのことを。だったら、僕のちょっとした華麗な式典を静かに見ていてもらいたいね。
頼めるかな、ワトスン、窓を開けて欲しい。それから、マッチで藁の端に火をつけてくれ」
私はそうした。隙間風に吹かれて、灰色の煙が廊下に渦巻いた。その一方、乾いた藁が爆ぜながら炎を上げている。
「さあ、証人を君の前に連れてこれるかどうか試さないとね、レストレイド。
みなさん、声を揃えて『火事だ!』と叫んでいただけますか? 
ではいきましょう、ワン、ツー、スリー――」
「火事だ!」我々は全員で怒鳴った。
「恐縮です。もう一度お願いしましょうか」
「火事だ!」
「もう一度だけ、みなさん、声を揃えて」
「火事だ!」
この叫びはノーウッド中に響きわたったに違いない。
その声が消えないうちに、驚くべきことが起こった。
突然、廊下の端、しっかりした壁のように見えたところから、ドアがさっと開いて、萎びた小男が巣からでる兎のように飛び出してきたのだ。
「上出来だ!」と、ホームズは落ち着き払って言った。「
レストレイド、紹介させてくれ、こちらが問題の証人、ミスター・ジョナス・オールデイカーだ」
警部は驚きのあまり新参者を凝然と見つめていた。
男は、明るい廊下に目をしばたかせ、我々と、くすぶる炎とをちらちら見ていた。
落ち着きのない灰色の目に白い眉毛。表情には狡猾、冷酷、悪辣さ。醜悪な顔だった。
「これはいったい?」やがて、レストレイドは口を開いた。
「いままで何をしていた? ええ?」
オールデイカーは不安そうに笑い声を上げた。怒れる警部の真っ赤な顔にしりごみしながら。
「悪いことは何も」
「何もだと? 無実の男を一人絞首刑にするのに、この上ないことをやってきたんだぞ。
もしこの紳士がここにいなかったら、本当に成功したかもしれないんだぞ」
悪人は哀れな声を上げ始めた。
「嘘じゃありません、これはただのプラクティカルジョークだったんです」
「ほう! ジョークだと? おまえの肩をもって笑ってくれるやつなどいないだろうよ、保証してやる。
この男を居間に連れていけ、俺も後から行く。
ミスター・ホームズ」レストレイドは、警官たちが降りていくのを待って話を続けた。「警官の前では口にできませんでしたが、ドクター・ワトスンの前で言うのはかまいません。ええ、これまでで最高の仕事ですよ。どうやって知ったのかが謎とは言え。
無実の男の命を救い、不祥事を防止してくださいました。警察での私の評判を滅茶苦茶にするところでした」
ホームズは微笑んで、レストレイドの肩を叩いた。
「大丈夫だよ、レストレイドくん、逆に君の評判は大幅に高まるだろう。
さっき書いていた報告書を少し書き換えるだけで、レストレイド警部の目をくらますのがどんなに難しいか分かるってわけだ」
「自分の名前を出してもらいたくないと?」
「少しもね。仕事自体が報酬なんだ。
たぶん、そのうち僕も名声をえるだろうし。熱心な歴史家さんが原稿用紙フールスカップを広げるのを認めたときに――ね、ワトスン? 
じゃあ、あの鼠の隠れ家を見てみよう」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha
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