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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Solitary Cyclist 孤独な自転車乗り 3

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 ホームズはほくそ笑んで手をこすり合わせて、
「なかなか特色ある事件だ。」と言い、
「角を曲がってから道が無人だと気づくまでの所要時間は?」
「二、三分かと。」
「では相手は道を引き返せず、なおかつ横道はないとおっしゃる?」
「はい。」
「では相手は両側のどちらかに踏み入ったことに。」
「荒れ地側はありえません。見えますから。」
「と、消去法でチャーリントン館へ道を取ったのが正しいことに。確か道の片側に敷地があるのでしたね。他には何か?」
「ございません、ホームズ先生。ただ何が何だかわからなくて。お会いしてご助言いただくまで心が安まらず。」
 ホームズは黙ったまま、しばらくじっとしていた。
「婚約された紳士の方はどちらに?」とようやく口を開く。
「コヴェントリの中部電気会社におります。」
「不意にあなたを訪ねてくることは?」
「あらホームズ先生! そんなふたりが他人みたいに?」
「それまで他にあなたを慕う人は?」
「シリルと会う前に幾人か。」
「後は?」
「あの嫌らしい人、ウッドリが。仮に想い人としましたら。」
「他には誰も?」
 この美しい依頼人はやや戸惑っているようだった。
「誰なのですか?」とホームズが問いつめる。
「その、これは単なるわたくしの思い違いかもしれません。ですけど時折、雇い主のカラザズさんが、わたくしにお心あるらしく思えることも。
ふたりきりになることだって。
夜にはあの方の伴奏をつとめます。
あの方は何もいいませんし、
立派な紳士ですが、女はいつも気づくもので。」
「ふむ!」とホームズの顔は真面目だ。
「その方、生計の方はどうやって?」
「お金持ちですから。」
「馬車や馬もないのに?」
「ともかく暮らしぶりはよくて、
でも週に二、三度はロンドンへ出てまして、
何でも南アフリカの金鉱の株にとても興味がおありだとか。」
「ではまた何か進展がありましたらお知らせを、スミスさん。
現在は多忙なのですが、いずれあなたの件をお調べする暇もできるかと。
それまでは、断りなく事を進めぬよう。
さようなら、よい知らせが来るよう願っております。
 自然の摂理に基づけば、ああいう娘にはつきまとう男がいるものだ。」とホームズは瞑想用のパイプを取り出す。「しかしわざわざひとけのない田舎道で自転車に乗ることもないだろうに。
人に明かせぬ恋の類なのは何より相違ないが、
にしてもこの事件には奇妙な裏がありそうだ、ワトソン。」
「ある場所にだけ男が現れるというあれかね?」
「まさしく。僕らのまずやるべきは、チャーリントン館の居住者が何者か探ることだ。
それからまた、カラザズとウッドリはどういう関係なのか。どうもこれほど性格が異なっていてはね。
そもそもどうしてこのふたりがラルフ・スミスの親類を探し出そうと躍起になったのか。
さらにもうひとつ。家庭教師に相場の二倍払いながらも馬一頭もないとはどういう家計になっているのか。駅から六マイルもあるというのに。
おかしいね、ワトソン――実におかしい!」
「行くのかね?」
案外ちんけなたくらみかもしれぬし、そのために他の大事な調査を中断するわけにはいかない。
月曜の朝、ファーナムへ行って、チャーリントンの荒れ地近くに身を隠してくれたまえ。実際にその目で確認したら、あとは自分の判断で動くこと。
それから館の住人についても調べた上で、帰って僕に報告を。
さてワトソン、話はここまでだ。何か足がかりでも見つけて、解決へと向かえでもしないかぎりは。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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