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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還
The Adventure Of The Solitary Cyclist 孤独な自転車乗り 8
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「どうあっても彼女があの男の妻になりえない、まっとうな理由がふたつ。
第一に、ウィリアムソン氏の式執行資格を疑うことができます。」
「わしは叙任されとる。」とごろつき老人が声を張る。
しかし何にせよ、強制結婚は結婚ならず、とんでもない重罪です。いずれわかるでしょうが。
この点を考える時間はこの先一〇年はあるでしょうから、僕に誤りなしとすれば。
それにしてもカラザズ、君は懐から拳銃を出すべきではなかった。」
「そう思っていたところです、ホームズさん。しかし用心を考えると、あの方をお守りするにはそうするしか――彼女を愛していたのです、ホームズさん。私は恋というものをこのとき初めて知った――考えるだけで頭がおかしくなりそうで、あの人が、南アフリカ一の人でなしの手中にあるだなんて――その名がキンバリーからヨハネスブルグまでひどく恐れられている男なのです。
だからホームズさん、信じてもらえないでしょうが、あの人を雇い入れてからというもの、この館に悪党が潜んでいるのを知ってますから、あの人に館の前を通らせるときにはいつも自転車で後をつけて、ただ危害が加えられないよう見張っていたのです。
距離をとって、鬚をつけて、私と気づかれないように。あの人は優しく気だてもよくて、もし私が田舎道でつけているとわかれば、住み込み家庭教師をやめるだろうと。」
「つまりそれも、あの人に去られてしまうと思ったからで。そんなことになれば耐えられません。
たとえ私を愛してくれずとも、せめてあの人の美しい姿をここいらで見られれば、それでいいのだと。」
「しかし。」と私。「あなたはそれを愛と呼ぶが、カラザズさん、私には身勝手に思える。」
とにかく私は、あの人を行かせたくない。それに、あたりにはこやつらもいますから、近くで見守る人間が必要だと。
カラザズは懐から電報を取り出す。「これです。」と男は言った。
「事の次第はあらかた見当がついた。またこの手紙から、つまりやつらの進退窮まったことも想像つく。
だが待つあいだ、あらいざらい話してもらっても構わない。」
年取った法衣姿のごろつきが悪口雑言をまくし立てる。
「覚悟せい!」と老人。「わしらを裏切るなら、ボブ・カラザズ、貴様をジャック・ウッドリと同じ目に遭わせてやる。
女への想いいの丈をわめくのは、貴様の勝手だから構わん。だがこの私服警官に仲間を売りおるなら、その日が貴様の命日だ。」
「尊師よ、そう興奮なさますな。」と言いながらホームズは煙草に火をつける。
「この事件における君たちのあれこれはじゅうぶん判然としている。僕が聞きたいのは、興味本位のごく些細な点だ。
とはいえ、君から言うのが難しいのなら僕が話す。そうすれば自分たちの秘密にしておこうなど、いかに不可能か思い知るだろう。
そもそも君たち三人はこの獲物のために南アフリカから来た――そこのウィリアムソン、このカラザズ、そしてウッドリが。」
「こいつらとは、二ヶ月前に初めて会った。生涯一度も南アフリカに行っとらん。今のはそのパイプに詰めてふかすがいい、でしゃばりのホームズさんよ。」
彼の姪がその遺産を相続することに気づいた。といったところ――かね?」
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo