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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Solitary Cyclist 孤独な自転車乗り 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「館には向かっていない。ほら足跡は右手に――そう、月桂樹のわきだ。うむ! やはりか。」
 と言うや、女性の甲高い悲鳴――恐怖のあまりのどから絞り出た悲鳴――が前方にある深い緑の藪から聞こえてきた。
そして高まったところで、首でも絞められたかのような音とともにいきなり切れる。
「こっちだ! こっちだ! 柱戯場にいる。」と男は藪を突き進む。
「くっ、卑劣な犬どもめ! こっちだ、みなさん。遅すぎた! 手遅れだ! なんてこった!」
 我々がいきなり飛び込んだのは、周囲が老木の開けた芝地だった。
その奥、楢の大木のかげ、怪しい三人の姿があった。
ひとりは我々の依頼人たる女性で、気も遠くしなだれて、口にハンカチを咬まされている。
その向かいに立つのが獣のようにいかつい顔の赤髭の若者で、ゲートルの履いた足を開き、片手を腰に当てて、もう片手には振り上げた乗馬鞭だ。
そのあいだにいるのが灰色の鬚をした初老の男、明色のツイードの上から短い法衣を重ね、ちょうど結婚式を終えた風であった。というのも、我々が現れたときちょうど祈祷書を懐にしまい、朗らかに祝うがごとくその邪悪な花婿の背を叩いたからだ。
「結婚だと?」と私は息も切れ切れに言う。
「早く!」と先を行く男が叫ぶ。「早く!」男が芝地をわたるので、ホームズと私も後に従う。
我々が近づくあいだに、ご婦人は身体を支えようと木の幹に寄りかかる。
元牧師のウィリアムソンは我々に対し慇懃無礼なお辞儀をし、どろつきウッドリは勝ち誇ったようにげびた笑いを放ちながらやってくる。
「もう鬚なんか取っちまえよ、ボブ。お前だってことはちゃあんとわかってる。
なに、お前とその連れがうまいところに来たから、ウッドリ夫人をご紹介しようじゃねえか。」
 先に立つ男の応対は妙なものであった。
変装用の黒鬚をむしって地べたに投げつけると、その下からすっきりした面長の青白い顔が露わになる。
そしてリヴォルヴァを構えて、ごろつきの方に狙いを付けるが、相手は手にした物騒な乗馬鞭を振り回しながら進み出てくる。
「そうだ。」と一緒に来た男が言う。「ボブ・カラザズだ。絶対に彼女を助ける。縛り首になってもだ。
言っただろ、彼女に手を出したら何をするか。だから主に誓って! その言葉を守ることにする。」
「もう遅い、この女は俺の妻だ。」
「いいや、君の未亡人だ。」
 銃声がして、ウッドリの胴着の前から血がほとばしるのが見えた。
男はうめきながらのたうち回り、仰向けに倒れて、その恐ろしい赤ら顔が急に不気味な青と白のまだらに変わる。
初老の男はまだ法衣を羽織っていたが、耳にしたこともないような呪詛の言葉を放ちながら、自分のリヴォルヴァを取り出した。ところが構えるより早く、視線の先にホームズの得物の銃身が突きつけられる。
「そこまでだ。」と友人の冷ややかな声。
「拳銃を捨てろ! ワトソン、拾うんだ! それをやつの頭に! ありがとう。
カラザズ、君もその拳銃をくれないか。もう暴力はいらない。さあ、渡すんだ!」
「あなた何者なんです?」
「僕の名はシャーロック・ホームズ。」
「なっ!」
「噂はお聞きでしょう。警察が来るまではその代わりを。
こっちだ、君!」友人の声をかけた先には、おびえた馬番がいた。芝地のわきまで来ていたのだ。
「来たまえ。この言伝を至急ファーナムまで。」
友人は手帳を一枚破って数語書き付ける。
来るまでは、全員を私個人の監視下に置かねば。」
 ホームズ独特の強烈な威厳がこの悲劇の場を圧倒してしまい、誰もが等しく操り人形であった。
気づけばウィリアムソンとカラザズは怪我をしたウッドリを館へ運び入れていたし、私もおびえた娘に腕を貸していた。
負傷者は自分の寝台に寝かされ、私はホームズに頼まれて診察をした。
報告を持っていくと、友人は綴織りの掛かった古い食堂に鎮座しており、その前でふたりが見張られていた。
「助かると思う。」と私が言うと、
「何っ!」とカラザズが声を張り上げ、椅子から飛び上がる。
「上へ行ってとどめを刺してやる。
あなたはあの方が、あの天使が、獰猛なウッドリに一生縛り付けられると言うのか?」
「その件は気に病む必要ありません。」とホームズ。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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