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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険
The Adventure Of The Speckled Band まだらのひも 5
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「今の話をどう思うね、ワトソン?」シャーロック・ホームズが、椅子にもたれかかりながら訊ねる。
「あのご婦人の言ったように、床にも壁にも異常がなく、戸も窓も煙突も通れないとすれば、その姉なる人が不可解な死を遂げたときに、たったひとりだったことは間違いないということになる。」
「では、真夜中の口笛は、ご婦人が死に際にもたらした不思議な言葉は、どうなる?」
「考え合わせてみよう。夜の口笛のこと。老医師と親密なロマたちの存在。娘の結婚を邪魔すれば、その医者が得をするというはっきりした事実。死に際の『ひも』という言葉の謎。それから最期にヘレン・ストーナの聞いた金属音(これは鎧戸の棒が元のところに戻った音かもしれぬが)。この方向で、謎を解き明かせそうだとは考えられないだろうか。」
「ごもっとも。だからこそ今日ストーク・モランまで行く価値があると思う。
その穴が致命的なのかどうか、これで説明可能なのかどうか、確かめたい。
突然、友人が声を張り上げたかと思うと、いきなり扉が勢いよく開いて、大男が入り口に立ちはだかった。
男の服装は、学者と農園主のそれが変に混ざった風であった。黒いトップ・ハットに長いフロックコート、長いゲートルという格好で、手で狩猟鞭を振り回している。
背が高く、帽子が入り口の鴨居すれすれで、肩幅もぎりぎりであった。
A large face, seared with a thousand wrinkles, burned yellow with the sun, and marked with every evil passion, was turned from one to the other of us, while his deep-set, bile-shot eyes, and his high, thin, fleshless nose, gave him somewhat the resemblance to a fierce old bird of prey. その大きな顔は皺だらけで日に焼けていて、鬼のような形相で我々をひとりひとりにらみつけ、怒りに燃えるくぼんだ眼、肉の薄い高い鼻などは、凶暴な猛禽のようであった。
「私の名前です。が、まずは名乗るべきでは?」友人は静かに問い返した。
「わしはストーク・モランのグリムズビ・ロイロットだ。」
「どうも、先生。」とホームズはおだやかに切り返す。
「今年の寒さはたちが悪いようで。」ホームズは言った。
「何をしゃべりおったと聞いとるのだ。」老医師は烈火のごとく怒った。
「ですが麦の方は出来がいいそうで。」と友人は少しも動じない。
「この、はぐらかしおって!」闖入者は一歩踏みだし、鞭をふるわす。
お帰りの際は戸締まりをよろしく。すきま風が寒いので。」
つけてきたからな。わしを相手にすると後悔するぞ! 見ろ。」
老医師はつかつかと進むと、暖炉の火掻き棒をつかみ上げ、大きな手で折り曲げてみせた。
「せいぜいわしの手に気をつけるこったな。」老医師は吠えたあと、曲がった火掻き棒を暖炉の中へ放り込み、大手を振って部屋から出ていった。
「ずいぶん愛嬌のある人物だ。」と、ホームズは笑い出しながら、
「僕も身体は大きくないが、待っていれば決して彼より力は弱くないことを披露できたのだが。」
そういって、鉄の火掻き棒を取り上げると、ぐいと力を入れて元の通りまっすぐに伸ばした。
「御仁、僕と警視庁の役人を混同するとは、なんたる暴挙!
だが今の出来事は、僕等の調査のいい薬味になる。あのお嬢さんが、あの獣に後をつけられたことで、困ったことにならねばよいのだが。
さて、ワトソン、朝食と行こう。そのあとで僕は博士会館へ行ってくる。事件に役立つ資料が何かあると思う。」
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo