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The Case-Book of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの事件簿
The Adventure Of The Sussex Vampire サセックスの吸血鬼 4
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
この問題のご婦人、聞く限り実の子、あなたの連れ子、どちらの子にも手をお上げのようですが。」
「ええ、大変やきもちで――南国生まれの激情がなせるわざです。」
「しかし少年――確か一五で、おそらくは知恵はかなりついている。身体を動かすのは限度があるだけに。
何でも私の真似をして、わたしの言葉ふるまいを追いかけて。」
再びホームズは書き留め、座ったまましばらく物思いに耽る。
「では、その情が深いというお子さんなら、きっと実の母の思い出も大切に。」
赤子への奇行と、連れ子へ手を上げたこと、これらは同時期のことでは?」
妙な考えにでも取り憑かれたのか、どちらにも怒りを露わに。
メイソンおばさんから赤ん坊については何も聞いてません。」
「まったくついていけないのですが、ホームズ先生。」
人とは仮説を立てた上で、時を待つか、それを論破する十二分の情報を待つかするもの。
悪い癖です、ファーガソンさん。しかし本来の人間とは弱いもの。
遺憾ながらここにいるわが親友は、僕の科学的手法を大げさに見ておりまして。
とはいえ当座はこう言っておきます。この件、僕には不可解とも思えません。それでは二時ヴィクトリア駅でお目に掛かりましょう。」
曇りで霧も深い一一月の夕べのこと、ランベリの宿チェカーズに荷を預け、我々は馬車で、曲がりくねった長いサセックスの泥道を抜け、ようやくファーガソンの住む、周囲に何もない古い地主屋敷へと辿り着く。
大きいがまとまりのない建物で、中央の本館は古いが、両翼は新しくテューダー様式の煙突がいくつもそびえ、こけむしたホーシャム板の尖り屋根がついている。
戸口は角が丸くすり減り、張り出し玄関を縁取る古い瓦には、元の建築主にあやかってチーズと人の判じ絵紋が記されていた。
内部は、波打つ天井ががっしりした楢の梁に支えられ、床はたわんで反り返っているため平らでない。
年月と老朽からくる匂いが、崩れかかった建物全体に充溢していた。
ここでは、奥に一六七〇年とある、鉄柵付きの大暖炉のうちで、立派な薪の火が音を立てて燃えていた。
その部屋をぐるりと見回すと、時代・場所様々なものの入り乱れ方が実におかしい。
壁半分、鏡板仕立ての部分は一七世紀の元持ち主のものと思われるが、
裾部分の飾りには凝った今様の水彩で帯が引かれている。それでいて上部、楢の代わりに黄色い漆喰を用いたところに懸けられたのが、ずらりと揃った南米の武器具、階上のペルーのご婦人が持ち込んだに違いない。
立ち上がったホームズは、あの本意気の際の興味津々ぶりを見せて、用心しつつあらためる。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo