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The Memoirs of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの思い出

The Gloria Scott グロリア・スコット号 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 出港してから三週間目のある夜のこと、医者が病気の囚人をひとり診に来たのだが、その囚人の寝台のなかに手を入れて、拳銃の形を悟ってしまったのだ。
黙っていたならすべて流れたのに、その医者は臆病者で、驚いて声を上げて、顔を真っ青にしてしまったため、その囚人も何が起こったのか感づいて、その医者を捕らえてしまったのだ。
大声を上げないうちに猿ぐつわをはめて、寝台の下にしばりつけてしまった。
医者は甲板に通じるドアに鍵をかけなかったので、私たちはそこを通って躍り出た。
歩哨ふたりが射殺され、何事が起きたのかと調べるために走り寄ってきた伍長も同様だった。
もうふたりの兵士が戸の外にいたが、手のマスケット銃には装弾されていなかったと見え、撃つことができず、銃剣をつけようとしているあいだに撃ち殺された。
こうして我々は船長室に突進したが、戸を押し開けたとき、なかから発砲音が聞こえてきた。現場で、船長は卓上に止められてあった大西洋の地図に頭を押しつけており、かたわらには牧師が硝煙の立つ拳銃を手に、肘を立てて構えていた。
また、看守二名は乗組員にどちらも押さえ込まれ、かくしてすべての仕事は片が付いたように見えた。
広間が船長室の隣にあり、我々はそこに集まって、長椅子に身を投げて、お互いに談笑した。再び自由な身になったことを実感して舞い上がっていたのだ。
その部屋の壁際にはどこにも戸棚がついていて、偽牧師のウィルソンは、そのひとつをたたき割って、そこから赤いシェリー酒を一ダース引っ張り出してきた。
我々はその瓶の首をたたき落として、中身を大きな入れ物に注いで、一息に飲み干そうとしたその瞬間、いきなり前触れもなくマスケット銃の音が聞こえ、広間はその煙でいっぱいになり、机の向こうが見えない有様だった。
その煙がすっかりぬぐわれると、そこはまさに恐ろしい修羅場と化していた。
ウィルソンほか八名が床に折り重なるようにのたうち回り、机には血と赤いシェリー酒が流れ、今でも考えただけで気持ち悪い。
一同はその光景に怖じ気づいて、その計画を放り出さんばかりだったが、プレンダギャストの存在がその場を変えた。
彼は牛のように咆えると、戸口の方へ突進し、生き残ったものも後に続いた。
外に出ると、船尾楼に中尉と一〇人の部下がいた。
広間の机の真上にある天窓が少し開いていて、その隙間から我々に発砲したのだ。
次の弾を込める前に襲いかかり、彼らも堂々と応戦したが、我々の方が優勢で、五分間ですべてが決した。
主よ、この船のごとき修羅場が、かつてあったでしょうか。
プレンダギャストはまるで怒れる悪魔のようで、兵士たちを赤子のようにつまみ上げると、生死も問わず、船外へ放り投げた。
ひとり重傷の軍曹がいて、驚くほどの時間、泳いでいたが、哀れに思った誰かがその頭を撃ち抜いた。
戦いが終わると、もう我々の敵は看守と航海士、医者をのぞいてはただの一人もいなくなった。
 一同のうちで大きな口論が始まった。
我々の大部分は自由を取り戻せて喜んではいたが、人殺しを心から望んでいたわけではない。
マスケット銃を持った兵士をたたきのめすことと、人を惨殺するのを傍観するのは別のことだ。
我々のうち八名、囚人が五名に乗組員が三名だが、これだけはどうしても見てられないと言った。
しかしそれは少しもプレンダギャストとその仲間の心を動かさなかった。
無事乗り切るためには、絶対にこの計画をやり遂げ、証言台でほいほいしゃべるような舌を残してはならない、と言うのだ。
危うくこの捕虜たちと運命をともにするところだったが、ついに彼は言った。望むなら小舟に乗ってここを去るがいい、と。
我々はこの提案に飛びついた。もうこの血に飢えた行為に辟易していたし、さらにひどくなることがわかっていたからだ。
我々はセーラー服をそれぞれ一着ずつと、水の樽をひとつ、肉の塩漬けの入った樽ひとつと、ビスケットの樽ひとつ、コンパスひとつをもらった。
プレンダギャストは海図を投げてよこし、自分たちは遭難中の乗組員で、船は北緯一五度、西経二五度のところで沈没したと伝えろと言った。かくして我々はもやい綱を切って出発した。
 さて、ここからがこの話のもっとも驚くべきところなのだ、息子よ。
戦いのあいだ、乗組員たちは前檣の下帆を裏帆にしていたが、竜骨と垂直な向きになおした。そのとき、ゆるい風が北東から吹いていたので、帆船は次第に遠ざかり始めた。
我々の小舟は上下しながら、長く緩やかな大波の上を漂った。私とエヴァンズとは、一行のうちでもいちばん教養があったので、船尾の隙間に座って現在位置をはじき出し、どの岸へ着くべきかを考えた。
カーボ・ベルデは我々の北方五〇〇マイルほどのところ、アフリカ海岸は東方七〇〇マイルのところだから、悩ましい問題だった。
総じて北向きの風が吹いてきたので、シエラレオネに行くのが最善と考え、船首をその方角に向けた。元の船はそのとき右舷の方で、帆をたたんで漂っていた。
が、ふいにその船から真っ黒な煙が立ち上るのを目にした。その煙は水平線にそびえ立つ怪異な樹木のようだった。
数秒後、雷のような轟音が我々の耳を遅い、その煙が薄れたときには、もうグローリア・スコット号は影も形もなかった。
ただちに再び小舟の頭を一度回して、力いっぱい漕いで、その場所へと向かった。海上に依然として残る煙が、惨状の影をとどめている。
 着くまでにはかなりの時間を要し、まず救出は手遅れかと思っていた。
まっぷたつに割れた小舟、大量の木枠や円材の破片、そんなものが波に浮き沈みしていて、船の沈没現場なのだとわかったが、生命の影がひとつもなく、望みなしと引き返そうとした。とそのとき、救いを求める声を耳にして、見ると遥か彼方に船の破片をまたがるようにして抱きつく、ひとりの男があった。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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