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The Memoirs of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの思い出

The Gloria Scott グロリア・スコット号 8

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
その男を小舟に引き上げてみると、ハドソンという若い乗組員だとわかった。ひどくやけどをし、疲れていたので、何事が起きたのかは、翌朝になってようやく聴けた。
 どうやら我々が船から去ったあと、プレンダギャストとその一味は、残った五人の捕虜の処刑を始めたらしい。
まず看守二名は射殺されて海に放り出され、三等航海士も同じようにされた。
そこでプレンダギャストは船の中艙に降りていって、あわれな医者の喉を切った。
残ったのはただひとり、一等航海士だけだったが、その男は勇敢な、力の強い男だった。
プレンダギャストが血だらけの刃物を手にして近づいてくるのを見た航海士は、何とかして少しゆるめていた縄を、蹴って取り外し、甲板を駆け抜けて後部船倉に飛び込んだ。
一〇人ほどの囚人たちが拳銃を手に、探しながらだんだん降りていくと、彼は手にマッチ箱を持って、口を開けた火薬箱のそばに座っていた。その火薬箱は船に積み込んだ一〇〇個のちのひとつで、彼は、これ以上狼藉を働くなら全力で爆発させるぞと言い切った。
まもなく爆発が起こった。ハドソンの想像では、航海士のマッチというよりは、囚人の誰かが誤って銃を撃ったがために起こったのだという。
その原因が何であるにせよ、それがグローリア・スコット号の最後であり、船を乗っ取った烏合の衆の最期であった。
 以上が、簡単だが、息子よ、私の巻き込まれた恐ろしい出来事の顛末だ。
翌日、我々はブリグ型帆船のホットスパ号に救助された。オーストラリアに向けて航行中で、船長は我々が難船した旅客船の生存者であるという言葉を難なく信じてくれた。
護送船グローリア・スコット号は海上で遭難したと海軍省より発表され、その本当の運命については一言も漏れなかった。
素晴らしい航海を続けたあと、ホットスパ号はシドニーに我々を降ろしてくれた。そこでエヴァンズも私も名前を変え、ともに鉱山へ出かけていった。そうして、あらゆる国から集まる人々に紛れ、過去の自分を難なく葬り去ることができた。
 そののちは、私が語る必要もあるまい。
我々は資産家になった。旅をした。イギリスに財のある移民として帰ってきた。そうして田舎に土地を買った。
二〇年以上のあいだ、静かに人のために生きた。そして過去は永久に葬り去られたものと信じていた。
その前提で想像してみてくれ、私のところへ来た例の船乗りが、遭難から救ったあの男であるとわかったときの、私の気持ちを。
彼は我々を見つけ出して、その恐怖で生きてゆこうとしたのだ。
今となれば、私が彼ともめ事なくやっていこうとした理由が、お前にもわかるだろう。そうしてまた、恐怖に覆われていた私をいくらか同情してくれるだろう。今や彼は私から遠ざかって、もう一人の犠牲者のところへ脅迫しにいった。』
 そして、その下には手書きの震えた字で、ほとんど読めないが、『ベドウズが暗号で、Hはすべてを知らせたと手紙をくれた。
素晴らしき主よ、我々の魂にどうかご慈悲を!』とあった。
 これがその晩、親友のトレーヴァに読み上げた物語だ。思うに、ワトソン、その紙切れも、こんな事情であれば劇的なものになるだろう? 
その善良な友人はその事件を嘆き悲しみ、インドのタライにある茶農場へ行って、そこでうまくやっていると聞く。
またその船乗りとベドウズについては、警告の手紙が書かれたのち、
ふたりともまったくどこかへ消えてしまった。
警察へ訴え出なかったところを見ると、ベドウズは脅しを本気と誤解したのかもしれない。
ハドソンがあたりにひそんでいるのを見られて、ベドウズを殺害したのち逃亡したと警察では考えている。
だが僕は、真実はその真逆だと思う。
ありそうなことを考えてみると、追いつめられたベドウズはすでに密告されたものと思いこんで、ハドソンに復讐し、持てるだけの金を持って国外へ逃げたのだろう。
これが事件の真相だ、博士。もしこれでも君の収集の役に立ちそうなら、思う存分、好きにしてくれて構わない。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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