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The Memoirs of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの思い出
The The Reigate Puzzle ライゲートの大地主 2
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「よからん話だ。」と執事がはけたあとで大佐は言葉を続ける。「ここらでも指折りの名士でな、カニンガムのご老公は。
きちんとした人物で、この件では相当の痛手だろう。その男は長年仕えた忠実な使用人だったのだ。
きっとアクトンのところに押し入ったのと同じ悪党だな。」
「盗んだものが実に妙な取り合わせだった、あの。」とホームズは考え込む。
「ふむ! これは世界一簡単な事件と言っていいですが、とはいえ一見したところではいささか妙なところもあるではないですか。
由来、田舎で働く強盗団とは仕事場を転々とさせると相場が決まってまして、数日内に同じ地方で二軒も押し入らないものなのです。
あなたが昨晩用心を口にしたとき、そういえばと頭によぎったのは、おそらくイングランドではこの教区がいちばん強盗もしくは強盗団の関心を得られそうにないということで――ですが今の話では、まだ学ぶべきことがたくさんありそうです。」
「となると、もちろんアクトンもカニンガムも狙った家というわけだ。ここらじゃ段違いの豪邸だからな。」
「ああ、そのはずだ。もっとも両家はしばらく訴訟でもめとるから、互いに相当の血が流れておるようで、
アクトンのご老公はカニンガムの地所の半分の権利とかを主張しておって、双方の弁護士が争っていてな。」
「土地勘のある悪党なら、追捕するのもさほど難しくはないでしょう。」とホームズはあくびをする。
「フォレスタ警部がお見えです。」と執事が扉を開け放つ。
身だしなみのいい切れ者風の若い警官が部屋に立ち入った。
「おはようございます、大佐。」とその人物は言う。「お邪魔でなければ、その、ベイカー街のホームズ先生がおられると聞いたのもので。」
大佐が友人の方へ手を振ると、その警官はお辞儀をした。
「きっとご参加くださる気になろうかと存じます、ホームズ先生。」
「運命の神は君に反対だとさ、ワトソン。」と友人は吹き出す。
「入ってきたとき、ちょうどその事件の話をしていたところで、警部。
友人がいつもの体勢で椅子に寄りかかったので、状況は最悪だと私は悟った。
ですが今回はかなりよりどころがありまして。いずれの事件も同じ一味に違いありません。男が目撃されてます。」
「そうなのです。つまりそいつは哀れなウィリアム・カーワンを一発で撃ち殺したあと、脱兎のごとく逃げたんですが、
カニンガムさんが寝室の窓からその姿を見ておりまして、それにアレク・カニンガムくんも裏口から見たと。
カニンガムさんは寝台に入ったばかりで、アレクくんは化粧着でパイプを吹かせていました。
ふたりは御者のウィリアムが助けを求めるのを聞いて、で、アレクくんが何事かと駆け下りていきますと、
裏口の戸が開いていて、階段の下に着くと外でふたりの男が取っ組み合いをしてるのが見えたとか。
一方が一発撃つと、もう一方が倒れて、犯人は庭を抜けて生け垣を乗り越えて走り去ってしまって。
カニンガムさんは寝室からそれを見ていたのですが、そいつが道に出たところまでで、すぐに見失ってしまいました。
アレクくんは立ち止まって瀕死の男を助けられるか確かめてましたから、悪党も姿を消せたというわけで。
ただ、そいつが中肉中背、暗色の何かを着ていたというのがわかるだけで、それ以上そいつの手がかりはありません。ですが我々は精力的に捜査を続けてますし、やつがよそ者ならまもなく見つけられるでしょう。」
母親とともに番小屋に住んでまして、実にまじめな男でしたから、見回りでもするつもりで母屋へ行ったのだろうと我々は踏んでいます。
もちろん先のアクトンの一件でみんな用心してますからね。
盗人がちょうど戸を押し破ったところだったのでしょう――鍵がこじ開けられ――そこへウィリアムが行き会った。」
今回の衝撃で茫然自失ですが、元から耄碌してるんだとは思います。
しかし、ここにひとつたいへん大きな証拠が。ご覧ください!」
警部は手帳から小さな神の切れ端を出して、膝上に広げた。
ここに記された時刻と、哀れにも男が死に見舞われた時間とが一致することはおわかりでしょう。
また下手人が彼の手から残りを破り取ったか、あるいは下手人からこの切れ端を彼が取ったか、のどちらかということも。
ホームズはその紙切れを取り上げた。ここにそのまま再現しておく。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo