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The Memoirs of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの思い出

The The Reigate Puzzle ライゲートの大地主 5

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「盗まれた物次第なのです。」とホームズ。
「忘れないでください、我々の扱っている強盗は一風変わった男で、独特のやり口で仕事をしています。
たとえばアクトン家から盗った妙な品を考えれば――何でしたか?――糸玉、文鎮、あと残りは様々、思い出せませんが。」
「まあみな任せとるんですから、ホームズさん。」とカニンガム老人。
「あんたや警部の言うこたあ何でもちゃんとさせます。」
「ではまず、」とホームズが言い出す。「懸賞金を出して頂きたい――あなた自身の手で。役所では額を決めるのに若干暇がかかりますから、物事が迅速に進まないのです。
ここに書式をざっとこしらえておきましたから、よろしければ署名だけでも。
五〇ポンドが適当かと。」
「五〇〇ポンドだろうと喜んで。」と判事は用紙と鉛筆をホームズから手渡しで受け取ったものの、
「とはいえ、あまり正確ではないですな。」と書類に目を通しながら付け加える。
「あわててこしらえたもので。」
「ほれ、書き出しが『事実としては、火曜一時の一五分前頃に侵入がなされ』云々。
だが実際は一二時の一五分前でしたな。」
 その間違いに私は心を痛めた。この種の失敗をホームズが強く気にすると知っていたからだ。
事実に関して正確たるのが本分であるのに、この頃の病気で揺らいでおり、このささいな出来事からも、友人は本調子からまだほど遠いことがじゅうぶんわかる。
しばし困惑していることがありありと感じられ、警部も眉をつり上げ、アレク・カニンガムときたら笑い出す始末。
しかし老紳士は誤りを訂正しただけで、ホームズに用紙を返す。
「大至急こいつを刷りなされ。」と老人。「あなたの考えは素晴らしいですな。」
 ホームズはその用紙を注意深く手帳にしまい込む。
「では、ここでこうしてみたらいがかですかな。みんなして屋敷に入って、その妙ちきりんな盗人が果たして何も持ち出さなかったのか、確かめるというのは。」
 入る前に、ホームズは破られたという戸を調べてみた。
ノミなり硬い刃物なりが差し込まれて錠がこじ開けられていた。
押し込まれたところの木に痕が見て取れる。
「閂はお使いにならない?」と友人。
「必要を感じませんでな。」
「犬はお飼いにならない?」
「いえ、表につなげてあります。」
「使用人が寝に退がるのは何時です?」
「およそ一〇時で。」
「ウィリアムも平生その時刻に寝付くと考えても?」
「結構。」
「妙なのはこの夜に限って起きていたらしいことです。
時に、よろしければ屋敷内を案内して頂けるとありがたいのですが、カニンガムさん。」
 石敷きの通路は台所に続く道と、屋敷の二階へと直接行ける木の階段とに分かれていた。
そこを上がった踊り場は、正面玄関から上がれる飾り立てられたもうひとつの階段の反対側に当たる。
この踊り場から応接間と寝室数室に通じていて、カニンガム親子の部屋もそこに含まれていた。
ホームズはゆっくりと歩きながら、屋敷の構造に鋭い注意を向けていた。
その表情を察するに、友人は強いにおいをかぎ取っているのだろう。だがその推理がどの方角を向いているのか、私には思いもよらなかった。
「申し訳ない。」とカニンガム氏が我慢できずに口を差し挟む。「差し出がましいが、
この階段の上がったところにあるのがわしの部屋で、その向こうがせがれので。
盗人がわしらに気づかれぬようここまで上がってこれたかどうかは、あなたの判断に任せましょう。」
「せいぜい歩き回って、新しいにおいでも見つけてみたらいいんじゃないの。」と息子の方はむしろ意地悪そうににやりとする。
「そのためにも、もう少し付き合って頂きます。
たとえば、寝室の窓から表がどれほど見通せるのか知りたい。
ここはご子息の部屋ですね。」――と扉を押し開けて――「あれが、察するに、物音がしたときご子息が座って吹かしていたという化粧室、
でこの窓からは何が一望できますか?」
寝室を通り抜け、扉を押し開け、もうひとつの部屋をのぞき回す。
「そろそろ満足ですかな?」とカニンガム氏のきつい口ぶり。
「どうも。望んだものは残らず拝見できたかと。」
「では、どうしても必要なら、わしの部屋にも入いれますが。」
「お差し支えなければ。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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