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The Memoirs of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの思い出

The The Reigate Puzzle ライゲートの大地主 4

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「ええ、しかし犯人を捕まえないことには、その懐に手の突っ込みようもないでしょう?」
「ええまあ。そこが考えどころでした。
まだもうひとつ明らかな点があります。
あの覚え書きはウィリアム宛だったこと、
書いた当人が持ってきたのではないこと。むろんそうでなければ口頭で話を伝えたはずです。
仲介役は誰か? 
それとも郵便で来たのか?」
「私も調べてみました。」と警部。
「ウィリアムは昨日の午後配達で手紙を受け取ってます。
封筒が彼の手で破られてました。」
「素晴らしい!」とホームズは声を上げて、警部の背を叩く。
「君は郵便屋を見つけた。
一緒に仕事できて嬉しいよ。
さて、ここが例の番小屋、大佐、いらっしゃれば犯行現場をお見せしますよ。」
 我々は被害者の住んでいたこじんまりした小屋を過ぎて、楢の並木道を抜けていくと、アン女王様式の古い立派な屋敷に至った。その扉の上にはマルプラケの戦いの日付が記されてあった。
ホームズと警部の先導で我々はぐるりと横門へと回った。そこから庭が広がり、道に面したところには生け垣がある。
ひとりの巡査が台所の勝手口に立っていた。
「開け放しにしてもらえないかな、君。」とホームズ。
「さて、その階段のところこそ、カニンガムくんが立った場所で、今我々のいるところであったふたりの男の格闘を見たわけです。
カニンガムのご主人は窓際――左から二番目にいて――男がそのやぶの左手へ逃げ去ったところを見た。ご子息も同様で、ふたりの説明は一致しています。
それからアレクくんは飛び出して、被害者のわきにひざまづいた。
地面はたいへん硬く、ご覧の通りたどれる跡もありません。」
と話をしていると、ふたりの男が屋敷の角を曲がって庭の小道をやってくる。
ひとりは老人で、皺々の険しい顔にどんよりした目、もうひとりは威勢のいい若者で、晴れやかにこやかな顔に派手な服は、我々を呼んだ出来事に比べると妙な感じがした。
「まだやってんの?」と若者はホームズに言う。
「ロンドンの方は迷いがないものと思ってたな。
君はあんまりきびきびしてないんだね、どうも。」
「まあ、少しは時間をいただかなくては。」ホームズは愛想よく答える。
「だろうね。」とアレク・カニンガム青年は言う。「でも手がかりがまったくなさそうだな。」
「ひとつだけあります。」と警部が割り込む。
「思うに、見つけさえすれば――おや、ホームズ先生! どうしました?」
 気の毒にも友人の顔に突如としてきわめて恐ろしいものが浮かんだ。
目を引んむき、苦悶の表情をして喉を絞りながら、顔から地面に倒れ込んでしまった。
この唐突で激しい卒倒に、あわてて我々は友人を台所へと運ぶと、大きな椅子にもたれかかって友人はしばらく荒い息を続ける。
やがてばつが悪そうに詫びながら、友人は再び立ち上がる。
「ワトソンが説明してくれようが、僕はまだ病み上がりで。」と友人の言い訳。
「とかくいきなり神経の発作を起こすのです。」
「うちの馬車でお宅までお送り致しましょうか。」とカニンガム老人が言った。
「まあ、せっかくですから、ひとつはっきりさせておきたい点が。
ごく簡単に確かめられますので。」
「何ですかな?」
「その、僕の考えでは、その気の毒なウィリアムという男が来たのは、強盗が屋敷に入る前でなくあとだというのも、まあありうるのではないかと。
思いこみです、戸が破られているのに強盗が入ってないなど。」
「それは確かにそうだ。」とカニンガム氏は深刻そうに言う。
「なに、せがれのアレクがまだ寝についとらんで、確かに何者かの物音を聞いたとか。」
「そのときの居場所は?」
「化粧室で煙草を。」
「どの窓です?」
「灯りはおふたりともつけておいでですね?」
「そりゃそうです。」
「ここが実に妙なところです。」とホームズはにやりとする。
「まったく変どころか、強盗が――それもそれなりの経験を積んだ強盗が――家人がふたりまだ起きていることを灯りで知りながら、わざわざそのときに屋敷へ侵入するのですよ?」
「よほどの図々しいやつだな。」
「そりゃおかしな事件でなけりゃわざわざみなさんに解明を頼んだりしないさ。」とアレク青年。
「でもあんたの、ウィリアムが飛びつく前に賊が屋敷を物色したって考えは、ばかげた思いつきだと思うぜ。
どこか荒らされたとか、物が盗られてなくなったとか、そういうのはないんだろう?」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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