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The Memoirs of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの思い出

The The Reigate Puzzle ライゲートの大地主 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 シャーロック・ホームズは約束通り、一時頃に大佐の喫煙室にて我々と合流した。
初老の紳士を同伴しており、その人物は紹介によると、最初の強盗現場となった屋敷の持ち主アクトン氏だという。
「このささいな事件の解明に、アクトンさんも立ち会って頂きたく。」とホームズ。「当然この方も仔細に強い関心がおありでしょうから。
すいません大佐、僕のような疫病神に時間を取られてご迷惑かと。」
「それどころか。」と大佐は興奮のていだ。「この上ない名誉に思う。あなたの仕事ぶりの見学を許されるなんて。
正直のところ、私の予想をはるかに超えるもので、あなたの結論についてもまったく何と言ってよいか。」
「これからの説明で幻滅されるのではと心配ですが、その手際の包み隠さぬことを常に旨としております。友人のワトソンにも、知的興味を持つ誰に対してもです。
ですがまず、化粧室でやられたことでまだいささかくらくらしてますので、ブランデイの力を一口お借りできればと、大佐。
近頃は体力が消耗してまして。」
「ああいう神経の発作はそれきりであればいいが。」
 するとシャーロック・ホームズはめいっぱい笑う。
「そのことはおいおいと。」と言って、
「では事件の説明を順々にお見せしましょう、結論に至った様々な点も示しつつ。
推理にはっきりしないところがありましたら、どうぞ口を出してください。
 探偵術に最重要なのは、数ある事実から周辺のものと本質とを見極める能力です。
でなくては、力と気は集中せず散漫にならざるを得ません。
さて、この事件では初めから僕の頭のなかに迷いはわずかばかりもありませんでした。事件全体の鍵は、死者の手にある紙切れのなかに求めねばならぬと。
本題へ入る前に注意を向けて頂きたいのは、アレク・カニンガムの話が正しく、襲撃者がウィリアム・カーワンを撃ったあと〈すぐさま〉逃げたのなら、使者の手から紙を破り取ったのはどう考えてもその人物でないことになります。
ですがその人物でないとしたら、アレク・カニンガムに相違ありません。老人が下りてきたときには使用人が数名、現場に居合わせてましたから。
この点は単純ですが、警部は見落としを。州の名士はこの件に関係ないという頭があったためです。
ところで僕は、自分の旨として、いかなる思いこみもせず、事実がどこに至ろうと素直についてゆくことにしています。そこで捜査の最初の段階からアレク・カニンガムの関与をやや疑っていた次第なのです。
 それから僕は、警部の示してくれた紙切れをつぶさに調べてみました。
すぐにはっきりしたのが、これがたいへん珍しい文書の一部だということです。
これ、いかにも裏がありそうに思えませんか?」
「字面がやけにいびつだな。」と大佐。
「さよう。」とホームズが声を張る。「これがふたりの人物によって二字ずつ交互に書かれたこと、それはまずもって間違いありません。
この『時の』や『分前』の撥ね払いが力強いのに対して、『十二』や『十五』の弱々しさ、このことはすぐご納得頂けますね。
これらの字のごく簡単な分析から、あなたにも最大限確信を持ってわかるはずです。この『教え』と『るぞ』が強い筆跡によるもので、この『てや』は弱いと。」
「なるほど、火を見るより明らかだ!」と大佐は声を上げる。
「いったい何のために、ふたりの男はそんなやり方で一通したためたんだ?」
「むろん用件がよからぬことだから、そして相棒を信用しない片割れが、何をするにもそれぞれ等しく分けるべきだと強く考えていたからです。
さて、そのふたりのうち、『時の』や『分前』を書いた方が首謀者なのは明らかです。」
「どうしてそうなる?」
「両名の筆跡の特徴を比べるだけで引き出せましょう。
裏付けとしては、それより確かな根拠もあります。
この紙切れを注意してお調べになれば、強い筆跡の方が先に書かれ、もう一方が埋められるよう間を空けた、という結論にたどり着けるでしょう。
ですがその間がみなじゅうぶんとは言い難いため、ご覧ください、あとの男が『時の』と『分前』のあいだに『十五』を押し込んでいます。
つまりこのふたつは先に書かれたということ。先に書いた男こそ、疑いなく本件を思いついた人物です。」
「素晴らしい!」とアクトン氏が声を張る。
「まだ序の口です。」とホームズ。
「核心に向かうのはこれからなのです。
みなさんはご存じないかもしれませんが、筆跡から人物の年齢を割り出すのは、専門家ならかなり正確に行えます。
通常、それなりの精度で人を正しい年代に置けまして、
もっとも通常というのは、病気や体調不良の場合はその人物が若くとも老年の手振りそっくりになるからで。
この件では、一方は太く強い筆跡で、もう一方は傾き加減の字面、しかもやや崩しているのにそれでも読みやすい。これを見るに、前者は若者で、後者は年寄りだがそれほど老いぼれてもいない人物と言えましょう。」
「素晴らしい!」アクトン氏は再び声を張る。
「ところがより繊細でさらに惹かれる点がもうひとつあります。
これらの筆跡には、共通するところがあるのです。
つまりふたりは血縁にあるということです。
この古風な字がみなさんにもわかりやすいと思いますが、僕には同様の細かい点が多々わかります。
一家の癖がこの筆跡標本からたどれることは疑いようもありません。
もちろん今みなさんに話しているのは、この紙を調べた結果の主な点だけです。
みなさんよりも専門家の興味を惹きそうな演繹が他にも二〇と三あります。
こうしたことから、カニンガム親子がこの手紙を書いたという印象が、僕の頭のなかで深まることになったのです。
 ここまで来れば、次の行動はむろん、犯罪の仔細を調べること、そして今のことがどれだけ役立つのか確かめることです。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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