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The Memoirs of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの思い出

The Yellow Face 黄色い顔 8

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 私たちはすぐ出かけた。そして汽車から降りると、彼はプラットフォームで待っていた。停車場の明かりで、彼が非常に蒼ざめて、興奮の余りブルブル震えていることが分かった。
「奴等はまだいるんです。ホームズさん」 と彼は、私の友達の袖をかたくつかみながら云った。
「私がいった時、例の離れ家に明りがついているのを見ました。
すぐいって、ひと思いにすっかり解決しちまいましょう」
「あなたはどうしたらいいと思いますか」 とホームズは、暗い並木道を下りながら云った。
「私はあの家の中へ這入って行って、あそこに住んでいた奴を、見つけ出してやろうと思います。
無論ご一しょに行って下さるでしょうね」
「あなたは、あなたの奥さんの、この秘密をあばき出さない方がよいと云う忠告を無視しても、そうしようと決心したんですか?」
「ええ、私は断然やります」
「結構です。当然だと思います。
不安な疑いは明らかにするに限りますよ。
――すぐ出かけた方がいいでしょう。
もちろん、法律的に云ったら人のうちへ無断で入ると云うことはよくない事です。しかし、やったっていいと思います」
 真暗な晩だった。そして広い道から狭い道へ曲った頃から雨が降り始めた。その狭い道には、轍の跡が幾本も入り乱れて、深くついていた。
けれども、グラント・マンロー氏は、もどかしそうに、ぐんぐん歩いて行った。そして私たちも、出来るだけ早く彼の後に従った。
「あそこに、私のうちの灯りが見えます」 と彼は木の間に、ちらちらしている光りを指して云った。
「それから私たちが、目指している離れ家はこれです」
 彼はそう云いながら、細い道を一つ曲ると、私達のすぐ側に建物があらわれた。
真暗な前庭を横切って、黄色いすじが、なげられていて、入口の扉がしっかりしめられていない事を物語っていた。そして二階の一つの窓には、あかあかと灯りがついていた。
私達が見上げた時、私達は一つの黒い影が、そこを横切ったのを見た。
「あそこに、例の奴がいるんです」 と、グラント・マンローが叫んだ。
「あなたもあそこに、誰がいるのかわかるでしょう。
――さあ、ついて来て下さい。私達はじきに、総てのことを解決してやるんだ」
 私達は入口に近寄って行った。と、その時不意に、一人の女がうちの中から現らわれて、ランプの黄金色の光を背にして立った。
その女の顔は暗くて見えなかったけれど、何か哀願するらしく、両手でおがんでいるのが分かった。
「どうか、お願いですから止めて下さい。ジャック」 と、彼女は叫んだ。
「あなたがきょうの夕方ここへいらっしゃることを、私ちゃんと知っていたの。
――ね、ようく考えてちょうだい。もう一度私の云うことを信じて、あとで悲しまなければならないような原因を作らないでちょうだい」
「俺はお前を信じすぎていた、エフィ」 彼は厳然として叫んだ。
「あっちへ行ってくれ! 君にかまっちゃあいられないんだ。
私達はこの事件を一思いに解決してしまうのだ」
 彼は彼女を片方におしやった。そして私達はすぐ彼につづいた。
彼が扉をひきあけると中年の婦人が、彼の前に飛び出して来て、通り道をふさごうとした。しかし彼は彼女を後へおしやった。そしてたちまち私達は二階に、かけ上った。
グラント・マンローは、二階の、灯りのついた部屋にとび込んで行った。私達もそれに従った。
 それは気持ちよさそうに飾られた部屋で、テーブルの上に二本、暖炉棚の上に二本、ローソクが灯されていた。
隅の方に、小さな娘らしく見える女が、机に寄りかかって坐っていた。
彼女は私達が入って行った刹那顔を向うにむけてしまった。けれども私達は、彼女が赤い着物を着て長い白い手袋をはめている事がわかった。
がやがて、彼女が私達の方を振り向いた時、私は驚きと恐れのさけび声をあげた。
彼女が私達の方に振り向けたその顔は、何とも云えない、死人そっくりの色であった。
そしてその顔には、表情と言うものは全くなかった。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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