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A Dog of Flanders 14 フランダースの犬


Ouida ウィーダ
AOZORA BUNKO 青空文庫
粉屋の妻は、泣きながら戸を開けました、彼女のスカートの近くをアロアがしがみついていました。
「まあ、かわいそうに。あなただったの?」 彼女は泣きながら、優しく言いました。
「主人が帰ってきてあなたを見つける前に、帰ってちょうだいね。
わたしたちは、今夜、とても大変なの。
主人は今、外で家に帰る途中でなくした財布を探しているのよ。でも、こんなに雪が降っていては、見つけることなんて、とてもできないでしょうね。そうすると、もう私たち、お終いなの。
あなたにあんなひどいことした罰が当たったのかも知れないわ」
 ネロは、財布を彼女の手に渡して、パトラッシュを家の中に呼び寄せました。
「今晩お金を見つけたのは、パトラッシュです」と、ネロは素早く言いました。
「そうコゼツのだんなにおっしゃってください。そうすれば、コゼツのだんなも年とった犬に、住みかと食べ物を与えてやらないとはおっしゃらないと思います。
パトラッシュがぼくを追いかけてこないようにしてください。どうかパトラッシュにやさしくしてやってください。お願いします」
 どちらの女性もパトラッシュも、ネロが何を言っているのか見当がつかないうちに、ネロはかがみこんでパトラッシュにキスをすると、急いで扉を閉め、急速に暗くなっていく夜の暗がりの中に消えていきました。
 女と子供は喜びと恐れとで、言葉も出ない状態でした。 パトラッシュは、かんぬきをかけたがんじょうな樫の木の扉に向かって吠えたてたりして、苦しみと怒りの気持ちをぶつけましたが、何にもなりませんでした。
アロアたちは、扉の横木を取る勇気がなくて、パトラッシュを外に出させませんでした。 二人は、なんとかパトラッシュをなだめようと考えられる限りのことをしました。
パトラッシュに、甘いケーキと汁気の多い肉を持ってきました。とっておきのものを出して、パトラッシュの気を引こうとしました。暖炉のそばの暖かさで、パトラッシュをいざなおうとしました。けれども、効果はありませんでした。
パトラッシュは、慰められることも、横木のある入口から動くことも拒みました。
 粉屋が反対の入口から帰ってきました。もう六時でした。疲れ果ててぼろぼろになった様子で、妻の前に来ました。
「もう、出てこない。ランタンを持って、隅々まで探したが、消えてしまった。アロアの分も全部!」 青ざめた顔つきで、声を震わせながらそう言いました。
 彼の妻は、お金を彼の手に渡し、どのようないきさつでそのお金が彼女のもとに戻ってきたか、話しました。
この気の強い男は、体を震わせてソファーに座り、大いに恥じて、まるでおびえたように顔を覆いました。
「おれは、あの若者に酷いことをした。こんなことをしてもらう値打ちがない」と、ついにつぶやきました。
 アロアは勇気を振りしぼって父親の近くに忍び寄り、金髪の巻き毛をすり寄せました。
「お父さん、ネロに、また来てもらってもいい? 前みたいに。明日にでも来てもらってもいい?」と、アロアはささやきました。
 粉屋は、アロアをしっかりと抱きしめました。彼のたくましい、日焼けした顔はとても青白く、口は震えていました。
「もちろん、いいとも」と、子供に答えました。
「クリスマスの日にはネロに来てもらおう。いや、いつでも来たいときに来てもらおう。
神さまが助けてくださったんだ。おれは、ネロに償いをする。この埋め合わせはきっとする」
 アロアは、感謝と喜びの気持ちを示すために父親にキスしました。そして、父親のひざの上からすべり落ち、扉が開かないかどうかと、扉のそばで見張っていたパトラッシュのところに向って走っていきました。
「それから、今晩は、パトラッシュをもてなしてもいい?」 アロアは子どもっぽくやたらにはしゃぎながら叫びました。
 父親は、大きくうなずきました。「そうだね、そうだね。できるだけのことをしてやろう」 というのは、この頑固な老人は、心底感動していたからです。
 
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