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The Story of William Wilson Part Three(1) ウィリアム・ウィルソンの物語
The Story of William Wilson Part Three ウィリアム・ウィルソンの物語
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
100年余り昔のアメリカの作家、エドガー・アラン・ポオが書いた短編の一つを、「やさしい英語」の朗読でお送りします。
これらの物語は、特にアメリカの口語英語の理解に役立つように書いてあります。
また、これらの朗読は英語を話すのにも役立つことでしょう。
きょうは、ポオが書いた『ウィリアム・ウィルソン』という小説の第3部を聞いていただきましょう。ある男の良心との戦いの物語です。
皆さんはご記憶のことと思うが、私はこれまでの物語の中で、私が初めて上がった学校でのいろいろの経験談をお話した。言い換えれば、私がお話したのは、まず私と容貌も振る舞い方も似ている少年、名前も私と同じウィリアム・ウィルソンという少年と知り合った当初の模様だった。
それから、ウィルソンを痛めつけるつもりで、彼の部屋へ行った夜のこともお話した。
その夜、私が目のあたりに見たものがあまりにも恐ろしかったので、私はその部屋を出ると同時に学校からも永久に立ち去ったのである。
彼の寝姿と寝顔をのぞき込んでいた時、ひょっとすると私は鏡の中に写った自分の姿を見つめていたのかもしれない。
こんな顔ではない、確かに、昼間見る彼の顔はこんな顔ではない。
私と同じ名前で同じ顔、同じからだつきをしているうえに学校へ入ったのも同じ日ときている。
おまけに彼のほうは私の歩き方やしゃべり方をまねるのだ。
実際問題として、いま目のあたりに見ているものが私に似ようとする絶えざる努力の結果、そう単なる結果に過ぎないなどということが果たして人間わざとして考えられるだろうか。
私は恐れをなしてこの古い学校を去りその後二度と立ち入ったことはないのである。
それから何か月かの間、家でぶらぶらしていたが、その後、私はあの有名なイートンという学校へ行って勉強することになった。
私はもう以前の学校での生活のことはいくらか忘れてしまっていたし、少なくともあの当時のことについての私の感情は、その後変わってしまっていた。
そこで起こったことの真実、それは恐ろしい真実だったが、その実感が忘れ去られてしまっていた。
私はこのころになると、あの当時のことを思い出してみても、かつて抱いていた風変わりな考え方のもつ説得力を、ただせせら笑うのが落ちであった。
イートンで生活するようになってからもこの考えは変わらなかった。
私が向こう見ずに飛び込んでいった無分別な愚行の毎日のために、過去の生活でたいせつにしていたものをすべて忘れ去ってしまう結果となったのである。
しかしながら、私は自分の乱行の数々-それらは、ことごとく学校の決まりを犯すものであり、すべての教師の監視の目をくぐって行われるものであるがこれらを、今ここでお話するつもりはない。
こういった生活が3年続いて私は体は大きくなったが魂のほうは萎縮していった。
3年間の非行のおかげで私はすっかりよこしまな人間になってしまったのである。
ある晩、私は仲間の悪友たちを招いて自分の部屋で秘密の会合を開いた。
強い酒、トランプ遊び声高のおしゃべりなどが東の空の白むころまで続いた。
私は酒と運まかせの勝負事のために興奮して、極悪非道のアイデアに敬意を表して、乾杯しようとしていたその時、部屋の外に召使いの声がするのが聞こえた。
彼は、私と別室で話をしたいと申し出ている人がいる、と言った。
しかし、私は、私と同じくらいの身長の青年が、私が身に着けているのと同じような衣服を着ている姿を見届けることができた。
私が入っていくと、つかつかと私のところへ歩み寄って、私の腕をつかんで私の耳元に「ウィリアム・ウィルソン」とささやいた。
この見知らぬ男の態度と上げた指の震え方には、何か異様なものがあったので、私は大きく目を見開いた。しかし、私が強く感動したのは、このことではない。
私の心の奥底にまで衝撃を与えたのは、「ウィリアム・ウィルソン」というあの何でもない、ありふれた2つのことばだったのである。
私が思考力を取りもどし話ができそうになった時には、彼はもうそこにはいなかった。
何週間かの間、私はこの時の出来事のことを考えていた。
一体あのウィルソンというのは、どこの何者か、どこからやってきたのか、どういう目的だったのか。
私は、彼が家庭の事情で突然、私がやめたのと同じ日の午後に、あの学校をやめていることを知った。
しかし、私は、このことはまもなく考えなくなってしまった。私はオックスフォード大学で勉強する計画を立てているところだったので、そのことで頭の中がいっぱいだった。
Reproduced by the courtesy of the Voice of America