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Episode-3 The Legend of Sleepy Hollow(2)
Episode-3 The Legend of Sleepy Hollow (Washington Irving) スリーピー・ホローの伝説(ワシントン・アービング)
AMERICAN SHORT STORIES
いろいろの言い伝えの話も終わって,やがてパーティーから帰る時刻になりました.
イカバッドは,カトリーナに別れを告げるまでは,とても幸せそうな顔をしていました.
彼女が2人のロマンスに終止符を打ったのでしょうか.
カトリーナは,プロム・バン・プラントに嫉妬させ彼女と結婚するように仕向けるという,ただそれだけの目的で,イカバッドと会っていたのでしょうか.
さて,イカバッドはタリー・タウンを取り巻いている丘の上を,我が家をめざして遠乗りを始めました.
彼は,何年も前にある男が反逆者たちに殺された木の近くまで来ると,口笛を吹き始めました.
彼は,木の中で何か白い物が動くのが見えたような気がしました.しかし,実はそうではなく,ただ月の光が木に当たって輝き揺れ動いていたにすぎません.
彼は身震いをして馬をけり,さらに速く走らせました.
年老いた馬は走ろうとするのですが,かえって転んで川へ落ちそうになる始末でした.
馬は速く走り出しましたが,今度は急に立ち止まったので,イカバッドは危うく前方に投げ出されそうになりました.
そこに,低い茂みのある川べりの木立ちの暗がりの中に,大きくて黒いぶかっこうなものが立っているのです.
それは動きはしないのですが,今にも巨大な怪物のように飛びかかろうとしているのです.
逃げようにももう手遅れでしたので,彼は恐ろしさのあまり,ある一つのことを除いてはなすすべを知りませんでした.つまり,彼は震える声で谷間の静けさを破って「だれだっ!」とたずねたのです.
黒い物体が,暗がりの中をイカバッドの馬と並んで動き始めました.
黒い物体とイカバッドは並んで進みます.初めのうちはゆっくりと進みましたが,だれも一言も言いません.
黒い物体とイカバッドは,木の影を踏みながら丘を上がっていきました.
月の光がチラッとさしたかと思うと,イカバッドには,恐ろしいことに,その物体が馬であることがわかったのです.おまけに,その馬にはだれかが乗っているのですが,
その人には頭がついていないのです.頭は,その人の前,馬の上に乗っかっていたのです.
イカバッドは,力の限り年老いた馬をけったりむち打ったりしました.
2人は茂みや木の間をくぐって,全速力でスリーピー・ホローの谷を横切っていきました.
前方の上のほうに古い教会の橋がありましたが,首のない騎手はそこで止まって,自分の墓場へ帰っていくのです.
「ぼくのほうが先にあそこへ着ければ,ぼくは助かるんだ」とイカバッドは考えました.
馬は橋に跳びつき,雷鳴のような音を立てて橋を渡りました.
イカバッドは,頭のない騎手が止まったかどうか確かめようとして振り返りました.
すると,騎手が自分の頭を拾い上げ,たいへんな勢いでそれを投げつけるのが見えました.
頭はイカバッドの顔に当たり,イカバッドは馬からばら土の上に落ちました.
翌日,人々はイカバッドの馬が,何事もなかったかのように草を食べているところを発見しました.
彼らには,イカバッドの馬が谷を駆け抜ける時に残したひずめの跡が見えました.
橋の近くで,イカバッドの帽子がばら土の中から見つかりましたが,イカバッドは見つかりませんでした.
ほかに見つかった物といえば,イカバッドの帽子のそばに落ちていたものくらいです.
町の人は何週間もの間,イカバッドのことを話題にしていました.
人人は,この谷にまつわる怖い言い伝えのことを思い出して,結局は頭のない騎手がイカバッドをさらっていったのだ,と思い込むようになりました.
それからずっとたって,ある年寄りの農夫がニューヨーク市へ旅行をして帰ってきました.
彼は,ニューヨーク市で確かにイカバッドを見たと言いました.
その農夫は,イカバッドはカトリーナとの恋に破れたため,黙ってスリーピー・ホローを立ち去ったのだ,と考えていました.
一方,カトリーナのほうはどうかといいますと,彼女の両親は彼女がプロム・バン・プラントと結婚した時に,盛大な祝宴を開いてやりました.
結婚式に出席した大勢の人たちは,イカバッドの名前が出るたびにプロムがうれしそうな顔をするのを見ました.
そして,人々は,だれかがイカバッドの古いほこりだらけの帽子のそばに転がっていた,オレンジ色のかぼちゃの破片のことを言うと,プロムが大きな声で笑うのはどうしてだろう,と不思議に思いました.
ワシントン・アービング原作のアメリカの短編小説『スリーピー・ホローの伝説』をお送りしました.
来週も特別英語による次の短編をお送りしますので,どうぞ「アメリカの声」をお聞きください.
Reproduced by the courtesy of the Voice of America