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Episode-4 The Blanket(1) ブランケット
Episode-4 The Blanket (Floyd Dell) ブランケット(フロイド・デル)
AMERICAN SHORT STORIES
この物語はモリス・ジョイスが特別英語でお伝えいたします.
しかし,三日月は11歳のピーターの目には入りませんでした.
彼は,涼しい9月のそよ風が台所に吹き込んでいるのも気づきませんでした.少年は,台所のテーブルに置いてある赤と黒のブランケットに,すっかり心を奪われていたのです.
このブランケットは,少年のお父さんがおじいさんにあげた贈り物なのです-お父さんが,家を出ていくおじいさんにお別れの記念にあげたものでした.
ピーターには,お父さんがおじいさんを追い出すなんて,信じられないことでした.
そして,その晩は,少年とおじいさんが一緒に過ごす最後の晩だったのです.
お父さんは出かけていて留守でした.今度結婚することになっている女性と一緒に出かけていたのです.
皿洗いが終わると,老人と少年は外へ出て月の下に座りました.
「ハーモニカを取ってきて聞かせてやろう」老人は言いました.
ところが,おじいさんはハーモニカの代わりに,例のブランケットを持って出てきました.
「どうだ,いいブランケットだろう」老人は,ひざの上でブランケットをなでながら言いました.
「出ていく時に持っていくように,こんなブランケットを年寄りにくれるなんて,おまえのお父さんは親切な人だよ.
ずいぶん高かったはずだよ.この毛の感触をみてごらん.
こういうことを言うところは,いかにもおじいさんらしい口振りでした.
おじいさんはできるだけみんなを安心させたかったのです.
家を出ていく話が持ち出されて以来,おじいさんは,自分の考えで出ていくんだと言っていました.
考えてもごらんなさい.暖かい家や友だちと別れてあの建物へ行くのです-
ほかの大勢の老人たちと一緒に,何もかもあきらめて暮らさなければならない,あの国立の施設へ行くのです‥‥
でも,ピーターは,今晩お父さんがあの毛布を持って帰ってくるまでは,お父さんがそんなことをさせるはずはないと思っていたのです.
「うん,りっぱなブランケットだね」ピーターはこう言うと,立ち上がって家の中へ入っていきました.
彼は声を張り上げて泣くような少年ではありませんでした.それに,もうそんなに幼くはなかったのです.
彼は,おじいさんのハーモニカを取りに入っただけなのです.
老人がハーモニカを手にしようとした時,ブランケットが床の上に落ちました.
おじいさんは,2,3曲吹いてから言いました.「いいかい,この曲をよく覚えておくんだよ」
三日月は頭上高くかかっていて,そよ風が静かに谷を吹き渡っていました.
もう二度と,おじいさんのハーモニカを聞くこともないだろうなあ.
お父さんが,ここから遠く離れたところにある新しい家に引っ越してくれるのはありがたいことだ.
彼はおじいさんがいなくなったあと,晴れた晩に外へ出て,白々とした月の下でここに座っている気にはなれなかったのです.
音楽が終わってからも,しばらくの間,2人は何も言わずに座っていました.
Reproduced by the courtesy of the Voice of America