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LITTLE WOMEN 若草物語 15-2

Chapter Fifteen A Telegram 雲のかげの光 2

Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
 ジョウが帽子をぬぐと、みんなは、あっ!と、おどろきの声をあげました。ふさふさした髪の毛はみじかく切られていました。
「このほうが、さっぱりして気持がいいわ。じぶんの髪をじまんして、虚栄心を起しそうだったが、これでもいいわ。
どうぞお金とってちょうだい。」
「ジョウ、おかあさんは、満足とは思いませんが、しかりはしません。あなたが愛のために、虚栄心を犠牲にしたことはよくわかります。
でもね、そんなことまでする必要はなかったのです。いつか後悔するでしょうね。」「いいえ、そんなことありませんわ。」と、ジョウは、じぶんのしたことを、一がいに非難されなかったので、ほっとしていいました。 みんなは、ジョウの髪について、いろいろ考えました。なんといっても、重大事件でした。食卓をかこんだとき、髪の話でもちきりでした。いろいろ話があったあげく、ジョウがいいました。
ひょいと床屋の窓を見ると、長いけれど、あたしほどこくない黒髪が、一たば四十ドルなの、
とっさにあたしにもお金になるものがあると気がついてはいっていったの。そして、いくらに髪を買って下さるか尋ねたのよ。
店の人は、女の子が髪を売りに来たことなんか、あまりないらしく、びっくりしていたけど、
あたしの髪の色は、今の流行ではないといって、なるべき安く買おうとするのよ。
そこであたしお金のいるわけを話したりして、ぜひぜひといそいだの。
あたしにも売れるような髪があったら、家のジンミイのためなら売りますよと、とても親切なんでしょ。
 話がおわると、メグが尋ねました。
「切られるとき、こわいと思わなかった?」「床屋さんが道具を出しているあいだに、あたし見おさめに、じぶんの髪をながめたわ。でも、あたしめそめそしないわ。
おかみさんはあたしがきられた髪をながめているのに気がついて、長い毛を一本ぬいて、しまっておきなさいといってくれたの。
おかあさん、記念にこれさしあげます。きったらさっぱりして、あたしもう二度とのばそうと思いません。」
 おかあさんは、その毛をたたみ、おとうさんのみじかい灰色の毛といっしょに、机のなかにしまいました。
おかあさんは、ただ、ありがとうといっただけでしたが、娘たちはおかあさんの顔色を見て話をかえ、ブルック氏の親切なことや、明日はよい天気になりそうなことや、おとうさんが帰っていらして、じぶんたちが看病できるたのしさなど、できるだけ元気に話しました。だれもねたくないようでしたが、十時をうつと、おかあさんは、さあ、みなさんといいました。
ピアノで、おとうさんの一ばん好きな讃美歌をひきました。
元気よくうたい出しましたが、一人また一人と声が出なくなり、音楽がいつもなぐさめになるベスだけが、心こめてうたいました。
ベスとエミイは、大きな心配ごとがあっても、すぐにねむりましたが、メグはねむれませんでした。
ジョウは、身うごきもしなかったので、メグはもういもうとがねむったことと思っていましたが、おさえつけたようなすすり泣きを聞いたので声をかけました。「ジョウ、おとうさんのことで泣いてるの?」
「今はそうじゃないの、
あたしの髪のこと。」 ジョウは、そういって、なおもはげしく泣きました。メグは、なやめるいもうとにキッスし、その頭をなでました。
「後悔はしていないの。
だけど、美しいものをなくしたので、ちょっとばかり泣いただけ。
でも、もうすっかりおちついたから、だれにもいわないで。
おねえさんは、どうしてねられないの?」
「とても心配なので。」「たのしいことを考えてごらんなさい。ねむれてよ。」
 話しているうちに、ジョウが大きく笑ったので、メグはおしゃべりをやめようといって、ジョウの髪にカールをかけることを約束し、やがて二人はねむってしまいました。 時計が、十二時をうち、ひっそりと部屋がしずまったとき、一人の人かげが、娘たちのベッドからベッドを歩き、ふとんにさわったり、枕をなおしたり、ね顔をながめたり、唇にそっとキッスしたり熱いいのりをささげたりしました。
 その人かげが、カーテンをひいて、わびしい夜空を見あげたとき、ふいに黒雲のかげから月があらわれて、あかるい慈悲ぶかい顔のように、その人かげに照りましたが、その顔は、言葉なき言葉で、こうささやいているように思われました。「心やすくあれ、いとしき魂よ、雲のかげには、いつも光あり。」
 
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani
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